「・・・・なっ・・・なによ?」

いまだ好奇心から、危なっかしい場所をとおってしまう。
それが場違いなことであると、後悔した。

そう、目の前には、
身の丈180以上もあろうかという、いかつい風体をした男が立ちはだかっているのだから。

「あっ・・あの・・」

「やかましい!」

男の手は、女性の方をつかみ、
後方の壁へと押し投げた。

「ひいっ!(ドンッ!」

痛みと恐怖が・・
徐々に顔の作り笑いの熱をうばっていく。

「ご、ごめっ・・。ちがうの・・。ちがうの・・」

おびえる女性に、
血のにおいそうな男はゆっくりと顔を近づけた。

ライオンが獲物を前にして、
威圧感の中、小動物を、牙で噛み砕く様である。

顔のサングラスは、男の手によって、はずされる。
その下にあったのは、あおい・・め・・・。

「おれの目をみろ!」

「はっ、はい〜〜」

間の抜けた、高いかすれ声。
かろうじて、足が震えるのをこらえる。
恐怖の中にあった女は、
正常な判断も出来ず、その声に従う。

「なな、なんで、しょ・しょ・・うかか・・」

「おまえは・・」

「ひ、ひい、」

男の目が「カッ」と開かれた!

「死ぬ!!」

急遽静寂もなぎ払い、男が腕を振りかぶる。
刹那 円を描き、こぶしは女の眉間へ飛んでくるっ!!

「きゃああっ!」

思わず、目を閉ざす。

だが実際には、あたる瞬間に寸止めすることなど、
実戦で鍛えた男には、造作もないことだ。

「おまえはうごけない!!」

「えっ?」

死という強力な暗示を与えられ、間髪いれず 究極の緊張を味わった女に
文字通り精神攻撃のラッシュが入った。

「(な、なにこれっ?)」
驚愕しながらも、状態がわずかに変化したのを感じる。

「刺してやる!!」

男は右手を女性の腹にブサッ!・・と・・
もちろん本当は、何ももっちゃいない。

「うそっ・・!!」
目を大きく見開き、口からよだれが飛び散った。

すかさず男は、
・・洗脳者は、女の耳元で、低く声を発した。

「足から力が抜ける」

「えっ・・」

・・・フラッ・・

「(えっ・・・)」

女は、その場にくずれた。

女が自らの体の状態に困惑している。矢継ぎ早に言葉を射る。

「そうだ、そのまま、目を見開いたまま、おまえはなにもわからない!
 肉体は固まった。精神も時間も固まる!!
 氷のように冷たく、おまえは指一本うごかせない!!」

そして、軽く「もう、誰の言葉もきこえない」
と、付け足してから、
男は自分のモードを切り替えた。

「フッ・・・。ちょろいモンだぜ。
ハリウッドスターもびっくりだな。
 ハハハハハッ・・。
 おじょうちゃんヨ。そんなとこで寝てたら風邪ひくからなぁ」

「あらあら、まーた、そういう子にエッチするつもり?」

軽く、声だけで男を奮い立たせる妖艶さ。
うしろを向くとドアの影に、いつものボンテージ女が立っていた。

「人の趣味に、ちょっかいだすんじゃねえぜ?」

「フフッ・・」

ボンテージ女の足が、
倒れている女性の方へと向く。

それに影を落とすまで近づいて、
指で軽く上を向かせた。

全く、反応せず、
時の止まった女は目を開いたまま、
口のはじから、つっーーっと、
よだれの線を描く。

「カワイイわ・・。私も楽しませてもらおうかしら」

「調子に乗るな。俺の獲物だ。
 A3倉庫につれていくぞ」

「わかってるわよ。そんなこわいかおしないで」

ボンテージ女はまだ正常な笑いをかけると、
2、3歩身をひいて見せた。

「さて・・」

固まった女の手は引かれ、男の肩へ回されていく・・。

ギンと危険な瞳を女に向ける。

「おたのしみは・・・。
 コレカラだぜ」




(文:ブラックキャット)