みなさん、こんばんは。

わたしの名前は「編髪」(あみ)っていうの。このお話の作者と同じ名前だけど、違うわ。

作者の方はおとなの男性、わたしはれっきとした十代の女の子よ。

もともと、こういう名前は女の名前のはずなのに、男の人が使っているなんてきもいわね。

もっとも、本人は名前より苗字かグループ名のつもりで使っているペンネームらしいから。

わたしのこの名前は、れっきとした名のほうで、苗字はひ・み・つ。なんでも作者とおなじらしいわよ。

ところで、いきなり最初の挨拶が「こんばんは」って、勝手に夜に決めているのはわけがあるの。それは、わたしが妖怪だから、うっふっふ。そうよ。

でも、昼間にも出てくるわ。芸能界では昼でも夜でも「おはようございます」らしいけど、わたしたち妖怪はその逆になるのよ。

わたしはどういう妖怪ですって?うふふ。もともとは人間だったんだけれど、ある妖怪に襲われて自分もその妖怪と同じようになったの。

そして、またべつの人間を襲って妖怪にするのが、うふふふ、わたしたちの生きる条件なのよ。そうよ、人間を襲う妖怪なの。

ほら、あなたのことも、だんだん気持ちが高まって、人を襲いたくなるのよ。わたしの正体は、う...ふ...ふ...ふ...。

「ギャアーッ!」

あなたのうしろにへび少女

第1話

主人公の少女は、編髪(あみ)といって、前の年に中学を卒業し、私立の女子高校に進学したが、入学した年に上級生や同級生からのいじめを受けて秋ごろには中退してしまい、したがって、高校に通っていれば二年生という年齢で、十六歳である。美加也という女の子のような名前の、小学一年生の弟がいる。十歳も年が離れているが、編髪を生んだ母は編髪が小学生の時に死んだ。そして、中学三年生の時に父親が再婚したが、その父親も昨年死んだ。弟の美加也は、今の編髪にとって継母が生んでいた腹違いの子供で、その継母が最初の夫と離婚する以前に生んだ子供であり、しかも離婚後にいったんは父親が引き取っていたが、その父親も今年の春に死んだので、もとの母親が引き取ることになってしまった。

したがって、この姉と弟は腹違いで、性格的にも合わなかった。そして、母親も継母であるため、日頃から編髪には冷たく、特に弟が来て以来余計に冷たさが増していた。

編髪は、髪の毛を腰まで長くしていて外見は美少女に見えるが、性格が暗いことが最も災いしていた。

以前は太っていたためにいじめを受けていたが、継母も食事をろくに与えないなどしてどんどんやせていった。手先も不器用で自分で料理しようとした時に一度火事になりそうな失敗をしてから継母に台所に入ることさえ禁じられた。洗濯も、洗濯機をボタンの押し間違いをして部屋を水浸しにしたことでもはや指一本洗濯機にふれることも許されなかった。このため、家事手伝いという身分でありながらほとんど家事はやれず、継母からほとんどでくのぼう扱いを受けていた。

泣いてばかりの毎日だったが、いつか幸せが来ると思いながら必死にこらえていた。

「パパ、ママ、できたら生き返ってきて。ほんとうは、私も死んでいっしょに暮らしたい...。」

暗い陰には必ず悪魔たちが忍び寄ってくる。この家をつきとめたその天井裏から不気味にほほえんでいた。

「ふふふふ、編髪って女の子か。われわれ悪魔の世界にぴたり合いそうな子だな。」

「それなら、この妖怪を送りましょうか。ふふふふふ。」

継母は、ふたりの子供の生活のため、毎日パートで働いていた。

帰り道に、継母を呼び止める女がいた。

「もしもし、ちょっと、よろしいですか。」

「はい、何でしょう。」

「あなたのお子さんのことでご相談したいことがあって。」

「その、突然なんなんですの?」

「ご近所からおききした話によりますと、あなた、娘さんのことを虐待されてるそうじゃないですか。」

「何をおっしゃいますの。どこからそんなお話を。うちではほとんど近所づきあいなどしておりませんのに、そんなこといわれる筋合いございませんわ。失礼ですわね。」

「おほほほほ、あなたの血の気が引くのが私にはわかってますのよ。いっそ、その娘さん、私のところへいただけませんか?」

「えっ、あの子を預かっていただけるんですか?」

かねてから、編髪のことを快く思わない継母は、さっそくその話に乗ろうという気になった。

「ほほほ、けっこう嬉しがっているということは、やはりあなたにとって継子ですからかわいいと思わないんですね。よかった、さっそくご相談しませんか?不安でしたら、あなたのお宅で、子供たちにはわからないようにお話しますから。」

「わたしの家は、前の主人が残した狭い家なので、ちょっとむりですわ。」

「じゃあ、ちょうどここに私の家がありますので、そんなに時間のかからないことと思いますので。」

「そうですか、じゃあ、ご相談させていただきましょう。」

継母は、できれば編髪などすぐ手放したいと思っていたので、このさい話にのってしまおうと考えて女についてしまった。

編髪の継母を自分の家に入れた女は、継母が靴を脱いで玄関に上がろうとしている間、背中を向けて不気味に目を光らせ、手を口にあてながらうすら笑いを浮かべていた。

「うふふふふ。」

女は、髪の毛を幾重にも巻いてひとまとめの大きな髪止めでとめていた。継母も、同じように髪の毛を巻いていたが、女のほうはだいぶ長く、髪止めをはずすとひざあたりまで届くぐらいの髪であった。

女は、継母を、洋室のテーブルに案内した。

「そこへ、おすわりなさいませ。」

「はい。」

「それでは、娘さんについてお話ししてください。」

「とにかく、動作はのろいし、見ているだけでいらいらしてきますわ。」

「それじゃ、ただ、いじめているだけじゃないですか。」

「えっ?」

「わたしは、あなたの鏡の役割を果たしているのよ。ほら、こんな感じで。」

「はっ。」

女の目が、だんだんとつりあがってきて、口が裂け、なかから長い舌が出てきた。やがて、目が光りだし、首も長く伸びはじめてきた。

「うふふふふ。」

「あ、あなたは...、いったい...。」

「おほほほほ、わたしはへび女よ。」

「きゃあーっ!」

女の舌が、継母を目がけて伸びると、女の首も伸びてきて継母の顔に近づいてくるのであった。

「くくくく。」

「ああっ!」

継母は、その場で気を失ってがくっとなり、すわったままいすの後ろに首をもたれていた。そこへ、女は継母の首に顔を近づけ、ついに噛みついて、流れ出てくる継母の血を、長い舌でなめては吸い上げていたのであった。

「ふふふふふ。」

女は、不気味に笑い続けていた。まさしく、この女は、恐ろしい妖怪のへび女だったのである。

継母の帰りが遅いため、編髪と弟の美加也は腹をすかせながらいつのまにか部屋で倒れていた。

夜も十一時ぐらいに編髪が目覚めた。

「母さんは帰って来ないんだわ。もう、寝ることにしましょう。」

本当の母親であれば帰りの遅くなるのを心配するものであるが、編髪にはその気がなかった。たとえ帰ってきても虐待され続けるなら帰ってこないほうがましと思っていた。

編髪は用をたしてトイレから出た後、すぐ横にある洗面所で背中の真ん中ぐらいまで伸びていた自分の黒髪を念入りにとかした。編髪にとって、自分の髪の毛は小さい時から長くしていたいちばんの宝物だった。

「もう、このまま切りたくないわ。わたしにはこの髪の毛をのばしてゆくことしか楽しみがないわ。」

前髪を少し垂らしながら、それをつまんでしばらく毛先を見つめていた。その時、家の玄関を開ける音がした。

「はっ、お母さん。」

「まあ、おまえたち、まだ起きていたの、こんな遅くまで、寝なければいけないでしょう、こどもは。」

弟の美加也も起き出してきた。

「なんだ、やっとお母さん帰ってきたじゃないか。ごはんは?」

「ほほほ、おなかすいたろうと思って、ちゃんと買ってきてあげたわ。このお菓子を食べるのよ。日本じゃ売っていない高級のお菓子よ。偶然私の子供の頃の友達に会っちゃって、ずっとその人の家にいてついつい話がはずんじゃったのよ。」

継母はそのお菓子を二人にさしだしていた。編髪は戸惑っていた。継母の様子がいつもと違って優しく見えていたからである。こんなお菓子をくれることなど絶対にあるはずがないと思っていたからである。

「へえー、おねえちゃんにも、ちゃんと出したんだ。珍しいね、お母さん、ほら、早く食べてみなよ、おねえちゃん。」

継母の様子に戸惑いながらも、とりあえずおなかがすいていたので、編髪は食べることにした。

「わかったわ。ほんとうにありがとう。いただきます。」

「ぼくもいただきます。」

継母がさしだしたのは、蛙の形をしていたケーキのようなものだった。二人がほとんど同時にそのお菓子をほおばると、継母はにやりとした表情を見せた。編髪は前に垂れていた黒髪を背中へ払いながらお菓子を口にした。

「おいしいわ、これ、本当に外国のお菓子ね。」

編髪が久しぶりに明るい笑顔を見せた。そのとき、継母の顔が不気味にうすら笑いを浮かべた。二人とも胃の中に入れたことを見届けると、だんだんと目がつりあがってきていた。

二人はやがて悶え苦しみ出した。

「ううっ、なにか気持ちがおかしくなってきたわ。まるで泳いでいるような。」

「ほんとうだ、ぼくも、それに、頭が痛くなってきて苦しいよ。」

「おほほほほ、効き目が出てきたわね。」

「ええっ、お母さん、どういうこと、あっ、美加也が...。」

美加也はその場にうずくまって倒れ、うつ伏せになってしまった。

「いい気持ちでしょう、ほら。」

「なあに、このお菓子、毒がまわっているみたいだわ。」

「そのとおりよ。からだがもうすぐ動けなくなるのよ。」

「ええっ?お母さん、ああっ!」

継母は、だんだんと正体を表わしてきた。口の中から牙が飛び出してきた。顔の皮膚がふくらんでベリベリッと音をたてて破れ始め、その中からは恐ろしいへびのうろこが現われてきたのである。継母がへび女であることがわかった編髪は叫び出した。

「きゃあーっ!」

(つづく)



暗黒催眠空間トップページ