(本文・第二話)

「きゃあーっ!」
編髪は逃げようとして立とうとしたが、すぐにひっくりかえってしまった。

弟の美加也と一緒にお菓子の中に入れられていた毒のために、立ち上がることができなくなっていたのである。
「ほ、ほ、ほ、ほ。」
「きゃあ、こっちへ来ないで。」
苦しみ悶える編髪に継母がじわじわと近づいてきた。編髪は、胸あたりまで届いている自分の黒髪を激しく揺らせながら悶えていたが、継母にその髪の毛をわしづかみにされた。そして引きずり回されていた。
「うふふふ。」
「いたいっ、目が回る。」
その場でまた倒されると、息を切らしている編髪ののどもとに、継母は首をのばしながら顔を近づけてきた。
「くくく。」
「きゃーっ!」
編髪は、おそろしい姿に変わった継母を見て、また悲鳴をあげた。

継母の口からまた長い舌が現われて、編髪の首に巻きつき、編髪の息をもだえさせるのだった。
「くくくく。」
「はあ、ああ。」
継母は編髪の首に、ついにとがった牙をたてて噛みついてしまった。
「うふふふ。」
「はあ、はあ。」
編髪は気絶し、うつ伏せになって倒れた。やがて、編髪の腕にも、次第にうろこが現われ始めてきたのである。
「おほほほほ。おまえも今夜からへび女だよ。」

編髪が中退していた女子高校も、夏休みに入って一週間めを過ぎていたが、クラブ活動や水泳の特別講習などで生徒たちが多く出入りしていた。
校舎の裏手のクラブハウスに道具を運んでいる一年生の女子生徒がひとりいた。体育着から制服に着替えもすませ、クラブハウスの扉を閉めて校門へ行くために校舎のかどを回ろうとすると、突然奇怪な人影があらわれてきた。
「はっ。」
怪しい黒いかたまりのような人影は少なくとも髪の毛を長くしている女らしいことはたしかだったが、顔がよくわからなかった。その顔から不気味な光が突然出てきて、女子生徒にその顔を見せたのである。
「きゃーっ、だ、だれ?」
正体はへび女になっていた編髪だった。顔はうろこで覆われ。目がつりあがって口からへびの舌と恐ろしい牙が出てきていた。そして大声で叫ぼうとした女子生徒の口をとつぜん手でふさぎ出した。
「ううっ。」
「うふふふふ。」
女子生徒も髪の毛を肩からわきの下あたりまで隠れるほど長くしていて、白のヘアバンドを巻いていたが、編髪はその女子生徒の黒髪をわしづかみに引っぱって、女子生徒の髪の毛に隠れていたうなじに牙をとがらせはじめた。へび女にされた編髪は、いままたこの女子生徒を襲って、へび女の仲間にしようとしていたのであった。
「おまえもこれでへび女よ。」
「ぐぐっ。」
編髪が学校に通い続けていたら一学年下になるはずの女子生徒だった。
編髪は校舎にも入って、便所で生徒が入ってくるのを待っていた。編髪より一年上の、マッシュルームヘアーの女生徒も襲われてしまった。編髪をいじめていたもと同級生の女子生徒も噛みつかれてしまった。
「みんな、へび女になるのよ。この学校の者は、うふふふ。」
学校で編髪に襲われた女子生徒たちはその場にしばらく倒れていたが、夜になると起き出してきた。しかも、みんな目を光らせ、長い舌をニョロッと出して起き上がるのである。

女子生徒をつぎつぎに襲ってはへび女の仲間にしていった編髪は、深夜に自分の家に帰ってきたが、そこには継母のほかに、またその継母をへび女にしていた女が訪れていた。
「おっほほほ。あなたの娘さん、今日はいっぱい女の子を襲ったようねえ。血もたくさん吸ったんじゃないかしら。ふたりで分けましょうか。」
「そうね、編髪、ふたりでいっしょに吸おうかしら。」
「お母さん、おばさま。いま、準備しますから、ちょっと待ってて。」
編髪は、自分の部屋に戻って服を脱いでいた。たっぷりかいていた汗をふき、次に髪の毛をとかし始めると、耳元に白い毛糸のリングで髪の毛を二本に分けてまとめた。そのまま裸になっていて胸から先にふたつのおさげ髪を垂らしながら、ふたりのへび女の前に再び現われた。
「おほほほ。この女の子、意外とかわいらしい姿じゃない。」
「そうですか。みにくい子ばかりと思っていたけど、へび女にすれば似合うわ、その長い髪の毛も。」
「さあ、おばさま、お母さま、どうぞ。」
編髪は裸のまま正座してまとめた髪の毛を両側の肩の上から胸のほうに垂らしていた。
「おほほほ。おっぱいも案外大きいわね。」
継母をへび女にした女が、編髪の胸をもみ始めた。さらにお尻のほうもさすっていき、おまんこにまで指を入れて興奮させていた。
「あ、あんっ。」
「ほうらほら、どうしたの?だしたいのかしら。」
このへび女も、継母も実はレズビアンだったのである。
「そろそろ、かみつきましょうか。」
「そうね。」
髪の毛の生え際のところへ、継母が右側から、継母をへび女にした女が牙を近づけて、ほぼ同時に編髪の首に噛みついたのであった。肩を抑えられ、おさげの髪の毛をわしづかみにされながら、二人の女によって編髪は血を吸われていた。
「そういえば、美加也はずっと倒れたきりなのね。」
編髪が継母たちにきき出した。
「男の子はちょっと時間がかかるみたいよ。女の子はすぐに、身も心もへびになりきってしまうけど。」
こうして何日かが過ぎた。

一年が過ぎていた。
編髪によってへび女にされていた女子生徒たちは、最初は周囲の者にへび女であるとわかられないようなふりをしていたが、正体をたまたま見てしまった者が襲われてやはりへび女にされたため、まわりにへび女がふえてきた。へび女になった女子生徒のいる家庭では、母親や姉妹も襲われてへび女になっていた。こうして、へび女の正体を見た者はみんなへび女になってしまうため、世の中にへび女が数多くふえていることも認識されないでいた。
ただ、襲われた者はすべて女性ばかりで、父親や男兄弟のなかでは、自分の家族にへび女がいることにまだ誰も気付かないでいるという家庭ばかりであった。
ただひとり、男でへびになっていた美加也は一年間眠ってばかりいた。しかし、もし学校に通っていれば小学二年生になっていたはずの夏休み中に、気温が余りにも暑くなりすぎたため、ある日の夜中に目をさましたのであった。
美加也はトイレへ行こうとドアをあけて出た。トイレの前には洗面所と横に風呂場があるが、そこにはすでに姉の編髪がいたのであった。姉ももちろん、学校へ通っていれば高校三年生だった。一年前にへび女になった時に胸のあたりまでだった髪の毛がとどく毛先が、ずっと切らないでいてすぐに早くのびていたため、お尻を覆うほどぐらい長くなり、また多くなっていた。その長い黒髪を夜中に起きて念入りにとかしていた。美加也は、何度も大きな女物の櫛で長い黒髪をすいている姉の姿を見てそこに立ちすくんだ。美加也も、昔から髪の毛の長い女の子が好みで好きになるというより、自分も女の子に生まれたらあんなふうになりたいとうらやましがり続けていたが、腹違いの姉に対しては以前はそんな気持ちがなかった。しかし、すっかりきれいな肌になり、ネグリジェを着ていて大人の女に近づいているような姉の姿を見てぼおーっとなってしまった。しかも、性器も立ってきて精液も出ていたのである。が、実をいうと、美加也も気付いていなかったが、うらやましがっていた長い髪の毛の姿に近づきつつあった。一年間寝ていたままだったから髪の毛を切っておらず、肩先を覆って毛先がわきの下に届くほどになっていたのである。
編髪は頭の上に何本ものヘアピンをさして、それから左半分の髪の毛をまとめると三つ編みに結い始めた。念入りに、きれいに細かく編んで、毛先を黒いゴムで巻いてちょうちょ結びにして止めると、もう半分の髪の毛も編み始め、編み終えて同じ黒いゴムで毛先を巻き着けた後、両方の三つ編みの髪の毛を背中のほうへ一度にはらって洗面所から出ようとした。出る前にずっとその場面を見ていた美加也に一度後ろ姿を見せた。編んでもお尻のところにその毛先が届いているのだから、だいぶ長く1メートルはありそうだった。ふり向いて、美加也が起きていたのに初めて気がついた。パジャマを着たままの美加也だったが、髪の毛が乱れたまま背中の方に垂れていた姿に少し編髪も驚いた感じであった。
「なあに、あんた、いったいいつ起きていたの?」
「えっ?ぼくはどうしてたんだろう。」
「ほほほほ。わたしたち、へびになっているの、知らないの?」
「ええっ、へびって?なんのことだか。」
「それに、あんた、ずっとわたしのこと見て、いやらしいこと考えていたでしょ。」
「えっ。やだ。ぼくは。」
「隠してもだめよ。おまえの心のうちはわかるのよ。ふふふふ。」
編髪は、美加也が自分の髪の毛を編む姿に見ほれていたのを見通していた。
「おねえちゃん、ごめんなさい。」
「なにもあやまることはないわよ。ちょっと鏡で自分の姿見てみたら。」
美加也は、編髪に言われて鏡に近づき、自分の髪の毛が長くなっているのに初めて気がついた。
「こ、これ、ほんとうにぼくの髪の毛なの?いつのまに。」
「うふふふ。そこにすわってお待ち。髪の毛をととのえてあげるわ。」
編髪は自分の使っていた女ものの櫛で美加也の髪の毛をすき始めた。これも恐ろしいものである。まだ、美加也は身体はへびになっていても心はへびになっていなかった。しかし、へび女が使っていた櫛を自分の髪の毛に使うと心もへびになるという恐ろしい毒で、特に長い髪の毛にはより強い効果があるという。
「おねえちゃんみたいな髪の毛になりたいな。」
「ほほ、男の子のくせに女の子みたいになりたいの?まだ、髪の毛の量が多いから三つ編みにまとめるのは無理よ。そうだわ、これを使うといいわ。きっと似合うわよ。今晩、これでずっと寝ているといいわ。」
編髪が取り出したのは、以前に自分が耳もとで髪の毛をまとめる時に使っていた白い色のリングだった。美加也の髪の毛をとかした後、ふたつに分けてまとめ、左右の耳元にそのリングをしばって両方の肩に髪の毛を垂らせたのであった。おさげになった自分の姿を見て、美加也はまた興奮してしまった。
「わあ、もっと長く髪の毛を伸ばせるのね。」
ところが、しばらくすると、美加也はその場でまた倒れてしまった。編髪は、仕方なく美加也をだきかかえて美加也が寝ていたふとんへ運んでいった。また、夜が明ければ目がさめるようになるだろうと思い、自分も寝床に入っていた。

編髪は次の夜、また獲物を狙おうと街のなかへ出ていた。夜中に編んでまとめた二本の三つ編みの姿のまま、木陰に隠れていた。編髪も最も効果があるという髪の毛が長い者をよく狙っていたが、意外な姿を見つけた。編髪が目にしたのは、小学生の時の同級生でうち明けもせずしゃべったこともほとんどなかったが初恋の男の子だった。髪の毛を女の子のように長くして腰のあたりまでおろし、前髪を後ろでまとめて黒いゴムでしばっていた。その男の子の名は、えり男といった。
「そうだわ、あの子に。」
編髪は、えり男の後ろをそっとつけていた。えり男は大学受験で予備校から帰宅する途中だった。夜、道が暗いところへ入ったところでえり男の背中にそっと抱きつき、気づかれないでいた。
「くくくく。」
少女の毒牙が、ついに男の子にも迫ってきて
(つづく)


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