(第三話)

 

「ただいま。」
えり男が家に上がって、小学生の妹である昭子がえり男をまず見つけた。昭子は女の子であるが、えり男ほど髪の毛は長くしておらず、三つ編みではない短めのおさげだった。
「あら、おにいちゃん、お帰り。まあ、三つ編みしてるの?おにいちゃん。」
「ええっ?そんなのしてないよ。」
「だって、見えるわ。おにいちゃんの背中に、ああっ、きゃあ。」
昭子は、とつぜん後ろを向いて逃げ始めた。えり男の背中にへび女の編髪が抱きついているのを見てしまったからである。
「おい、変な子だな。」
編髪が後ろにいることにえり男は気づいていなかった。
えり男が自分の勉強部屋へ入り、さっそく受験勉強のためにすわると後ろから母親がやってきた。
「おかえり、えり男。あらっ、えり男の背中、髪の毛が濡れているわ。」
「ええっ、どうしたんだろう。」
編髪は、えり男が自分の部屋に入ったところで背中から降りたようであった。
「ふふふふ、あれがあの子のおかあさんのようね。先におかあさんの方から。」
自分の三つ編みにした片方の髪の毛の先をつまみながら、編髪は口に手をあてて不気味に笑っていた。
えり男の家に忍び込んだ編髪は洗面所に行って、えり男が使っていそうな化粧品などを物色していた。長い髪の毛のために使われているとみられる櫛を見つけて、編髪はそれを自分の頭の上に当てた。自分の毒をえり男の髪の毛にも流そうとしたのである。鏡を見ながら、編髪の顔がだんだん不気味な表情になり、また皮膚がべりべりと割れてきて、うろこだらけの顔も現われてきた。その時、後ろからえり男の母親が入ってきた。
「だれ、あなた、そこにいるのは、きゃーっ!」
長い三つ編みの二本の髪の毛を大きくはねとばしながら振り向いた編髪の顔は、うろこだらけの恐ろしい顔になり、口からへびの舌や牙も出てきた。
「見たわね。」
「だ、だれなの?ぎゃあ!」
編髪は首をすっとのばし、また口からニョロッと長い舌も現われてきてえり男の母親の顔を目がけてきた。両側の三つ編みの髪の毛もひとりでにへびが空をはうように動きだし、さらにえり男の母親の首に巻きついてきた。編髪の三つ編みの髪の毛がえり男の母親の首を絞め、ショックで母親は気絶して倒れた。編髪は首から髪の毛をほどくと、すぐにかみついて血を吸い出した。そこへ、母親の悲鳴を聞いて驚いて駆けつけた、えり男の妹である昭子も、恐ろしい姿を見て驚き、その場に立ちすくんだ。昭子が入ってきたことに編髪も気がついて、今度は昭子を目がけてまた母親と同じように襲いかかろうとしていた。
「きゃあーっ!」
「わたしの正体を見たあなたも、このままではおかないわ。あなたもへびになるのよ。」
「やめてえ。」
昭子の首にもかみつき、昭子もショックで気絶してしまった。
えり男の方は受験勉強中で部屋を締め切っていたため、母親たちの悲鳴も聞こえていなかった。それどころか、机のかたわらに誰かが書き残していた手紙らしいものが置いてあったので、それを手に取って読み始めて驚いていた。
「えり男さん、わたしよ。おぼえています?小学校の時に同じクラスにいた、編髪です。わたし、あなたを見かけてあなたのことがほしくなりました。いいえ、ずっとえり男さんのことが好きだったんです。いま、初めてあなたが髪の毛を長くして前髪を束ねて背中におろしていた姿を見たけど、男の子でも髪の毛を長くするのはやっぱり長い髪の毛の女の子にあこがれているからっていうから、わたしも髪の毛をずっとながくしていますから、わたしと恋人になれますわよね。わたしのお下げ髪をあなたのそのすてきな黒髪に結びつけたいわ。さっそく、今晩いっしょになりましょう編髪。」
や、やだ、どういうラブレターなのかとえり男は思った。編髪という女の子がいたのは記憶にあるが、えり男の好みではなかった。第一、顔はすごくブスだったから男も相手にしたがらなかった、そんな女の子とは恋人になどなりたくないと思った。そういえば、自分は直接話したことはないが、他の心ない男子からはよく気持ち悪いと言われていていじめられていた女の子だったというのも記憶にある。
こんな手紙、外へ捨ててしまおうと部屋の扉をあけると、その手紙の主である編髪が三つ編みの髪の毛を前に両方とも垂らしながら立っていたのである。えり男はまた驚いてしまった。
「今晩は。私の手紙お持ちなのね。お読みになりましたの?」
「な、なんだい、かってに人の家に上がり込んで、それに、返すよ、こんな手紙いらない。」
編髪は、えり男が手紙を自分のほうに投げ捨てようとするのを見て、えり男の手首をつかみはじめた。
「おねがい、持ってて、捨てないで。」
「離せよ、ぼくはおまえのことなんか興味ないよ。」
「そんなこと言わないで、わたしの恋人になって。」
「ちょ、ちょっと、お母さんとか気づいたらどうするの。」
「あなたのお母さんなら寝ているからだいじょうぶよ。妹さんもね。」
「えっ?ああっ!」
編髪は避けようとするえり男にまた近づいて抱きつきはじめた。
「うふっ、もうあなたはわたしから逃げられないのよ。」
「もう、いいかげんにして!」
編髪は、えり男に両手で身体を起こされ、つき飛ばされた。倒れた編髪をまたけとばして部屋の外から追い出し、扉をピシャッと閉めた。
「ううん、ええん。こうなったら。いいわ、復讐してやる。」
部屋の前でうずくまり、三つ編みの長い髪の毛が床をへびのようにはわせて、えり男に嫌われたと思って泣いてしまった編髪は、すぐに悪魔の心を目覚めさせた。
数十分後、受験勉強を続けているえり男の部屋をトントンとたたく者があった。まだ、あの編髪が来たのではないかどうか確かめるため、扉ごしにだれなのかきいてみた。声の主は母親とわかって、えり男は扉をあけた。あけるとそこには母親のほか、妹の昭子も立っていた。しかも、母親のほうは後ろを向いていてまた別の誰か女の子を抱いて立っているようだった。その女の子は、三つ編みのおさげ髪をほどいて背中じゅうにおろし、お尻も隠れるほど髪の毛を長くしていたやはり編髪だった。えり男の母親の胸に泣きながら抱きついているようで、母親は編髪の長い黒髪をしきりになでていた。
「な、なにをしてるの?お母さんも昭子も。」
「おにいちゃん、女の子に暴力ふるうなんて最低よ。」
「ええっ?その子は勝手に家に上がり込んできたんだ。しかもぼくにむりやりだきついて、いやな女ストーカーなんだぞ、警察呼ぶぞ、その子を家から追い出さなければ。」
「えり男、こんなきれいな女の子に対してそんなひどいこというもんじゃありません。おまえより長くてきれいな髪の毛のこの子のこと、ひどい目にあわせたら恐ろしいことがあるわよ。あなたも髪の毛を長くしているのなら、この子はあなたにお似合いのはずよ。おともだちになってあげたら。女の子を泣かすものじゃないわよ。」
「ええっ?お母さんまで、待ってよ。ぼくはほかに好きだと思う女の子が。」
「でも、それも片思いでしょう。だったら、この子のあなたを慕っている気持ちがわかるはずよ。」
「でも。」
「さあ、この子のお部屋におはいり。いつまでも泣いてばかりいたらいけないわ。」
母親も、妹の昭子も、編髪が襲ってへび女にしていることもえり男は知らなかったが、ふたりともようすが変だと思った。だが、すぐに母親は編髪の身体を抱き起こしてえり男の部屋の中へ連れ込み、部屋に入れると妹の昭子がばたんと扉を閉めた。
「ああっ。」
「うふふふふ。」
母親も昭子も不気味に笑いながら口に手を当てていた。ふたりともへび女にされているのである。
部屋に閉じ込められたえり男は、部屋に入って後ろを向いたままの編髪を追い返そうとしたが、扉の前に立ちはだかっている編髪をどうしていいかわからなくなってきた。
「おねがいだから帰ってよ。ぼくはほかの女の子のことを、ああっ。」
「だって、片思いでしょう。わかったわ。わたしも片思いだということが、それならば。」
えり男は、三つ編みをほどいた姿を見て、少し興奮してきたのを感じた。
「やだ、こんな女の子なんかに。」
「ふふふふ。おちんちんたってるわ。やっぱりわたしみたいな長い髪の毛の女の子が好きなんでしょう?」
「ちょっと、もう、いやらしい話、やめて。」
「気持ちいいこと、してあげる。」
編髪は、手首に巻いていた黒いゴムをまた自分の髪の毛にまとめて耳のところにゴムをとめた三つ編みではないおさげ髪の姿になった。両方の髪の毛をまとめ終えた編髪にえり男は近づいて手をかけようとした。
「ねえ、ほんとうに帰ろう。ああっ。」
「いま、あなた、わたしの髪の毛にさわったわ。」
首すじにうろこが見えてきた。皮膚がまたべりべりとやぶけて、顔を振り向き、えり男は編髪のうろこだらけの顔を見て初めて編髪がへび女だとわかった。口からも長い舌がニョロッと現われてきていた。
「うわあーっ!」
「くくく、あなたが恋人になってくれないなら、わたしはあなたをへびにするわ。」
「や、やだ。やめて。」
すぐに編髪はふたつに割ったおさげ髪を振り乱してえり男に抱きついてきた。逃げようともがくと、今度はえり男の腰のところに後ろからとびついてきた。そして、えり男のはいていたズボンのチャックをあけてそのなかをまさぐりはじめた。
「うふふふふ。もうわたしから逃げることはできないわ。」
「やだ、やめてよ。離して。」
「うふふふ。」
とうとう、編髪がえり男の立っていた性器をじかに握り始め、その立った先にも指をおさえたりするなどして、えり男をより興奮させたのであった。
「あ、あっ、ああ。」
「うふふふ、うふふふ。」
どくどくっ、じゅるうじゅるじゅる、とうとう、精液が出てきてしまい、しかも服を着たままだったので、パンツもズボンもその精液で濡れてしまった。身動きできなくなったえり男はその場に引きずられて倒れた。えり男の長い髪の毛を編髪がわしづかみにして、えり男の身体の上に編髪は抱きつき、長いおさげの髪の毛を前に垂らしてえり男の顔をなでさせた。そして、えり男の首にかみついて血を吸い始めるのであった。
「ううっ。」
「あなたはわたしのもの。これでへびになるのよ。」

いっぽう、編髪の家ではその日の夕方になって弟の美加也が目をさましていた。美加也は自分の髪の毛をふたつに分け、それぞれの耳元に白いリングを結んだままの姿で倒れていたのであった。洗面台の鏡を見て美加也は不気味に笑い出した。
「うっふふふ。このまま外へ出てみようかな。お母さんもおねえちゃんも帰ってきてないし。」
美加也はとうとうおさげの姿のままで外出しはじめた。
美加也はしばらくして同じクラスにいた三人の女子児童が並んで歩いているのを見かけた。三人ともピアノ教室に行っての帰りだった。加代、美樹、まり子の三人だった。このうち加代はおかっぱ、美樹はボーイッシュなショートカットだったが、もうひとりのまり子が髪の毛がたいそう長くて両方の耳もとにピンク色のリボンをそれぞれまとめてとめたツイン・テールでさらに三つ編みにしていた。美加也はまり子が三つ編みをしている姿を初めて見てどきっとしていた。学校に通っていたころは耳もとにゴムでまとめたふたつの編んでいないおさげの姿しか見たことがなかったからである。ほどいたらひざぐらいまでは届くぐらい長そうである。
美加也はひそかに女の子たちのあとをつけていた。美樹が途中で分かれる道でいなくなり、加代も近くの家に帰ってまり子ひとりになった。
「じゃ、また明日、学校でね。」
「バイバイ。」
まり子ひとりになったところで、美加也はそっと距離を近づけてきた。いよいよまり子を襲えると思うと、性器も立ってきて精液も出かかっていた。そして1メートルぐらいのところでぴったりくっつくようにまり子のあとを歩きだしたが、しばらくしてまり子もさっきからずっと後ろから誰かがくっついていることに気付きだし、振り向いて美加也の姿を、しかも女の子のようなおさげになっているのを初めて見ておどろいた。
「あ、あなたは、ずっと学校に来ていなかったクラスの男の子、わたしに何のようなの?」
「ぼくのことがわかったの?ねえ、ぼくのこと、どう思う?」
「ちょっと、とつぜんなんなのよ。なんとも思わないわよ。」
三つ編みの長いおさげ髪を振りながらまり子はまた前に向き直ってはやめに歩き始めた。相手になんかするつもりはないという感じだった。
「ねえ、ぼくの髪の毛きれいでしょう。おねえちゃんもきれいといってくれたよ。きみの髪の毛もきれいだなあ。」
美加也は先へ行こうとするまり子の背中に手をかけた。髪の毛にもふれてしまい、まり子がふたたび後ろを振り向いて怒り出した。
「なにするのよ。男のくせして、気持ち悪いわ。そんな女みたいな髪の毛の男の子なんか相手にしたくないわ。」
「ふふふふ、ぼくから逃げられると思う?」
「いいかげんにしなさい。学校ずっと休んで、あんたのこと先生にいうわよ。あっ。」
美加也の顔がひきつりだした。口が両側に裂けてきてなかからニュルッと舌が出てきた。首も伸び、うろこが現われて、へび男である正体をまり子に見せ始めたのである。
「くくくく。」
「きゃあっ。」
おどろいたまり子はすばやく走り出した。しかし、美加也もその後を追いかけてくる。外も暗くなってきて助けを求めようにも近くに歩いている人がほかにいなかったため、走って逃げるしかなかった。途中の森へ入ればと広い通りから曲がりだしたが、かえって美加也の思うつぼであった。まり子が後ろを向くとすぐそばに美加也の姿が見えていた。
「へへへへ。おまえは逃げられないよ。おまえもへび女になるんだよ。」
美加也はとうとう両手でまり子の両方の三つ編みの髪の毛をぎゅっとつかみ、ひっぱりはじめた。まり子は追いつかれてしまったのである。
「きゃあーっ!」
(つづく)



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