暗示 その18

 

君は、長いトンネルにいる。

 

前を見ても、後ろを見ても、出口は見えない。

トンネルはマッスグじゃないから、

もしかしたらカーブの先に、すぐに明るい出口があるかもね。

 

とにかく前に進もうか。

 

もう何時間も歩いて、くたくただ。

足が痛い。

喉が渇く。

 

気付いたら、靴を履いてない。

だから足が痛いんだ。

 

トンネルを吹き抜ける風。

体から体温と意志を奪われていく。

 

気付いたら、服を着ていない。

だから心まで寒くなっちゃったんだ。

 

足元を見ると、いつの間にか膝まで水に浸っている。

座って休むこともできない。

 

そして君は、重大な失敗を犯した。

 

足を滑らせて、転んだ。

 

ただ、それだけの失敗。

 

でもね。

ビショ濡れになった。

体が芯まで冷えた。

懐中電灯が壊れた。

どっちに進んできたのか分からなくなった。

 

心が砕けて、涙が流れた。

 

元の世界に戻りたくても、

新しい世界に行きたくても、

どうしたら良いか、何も分からない。

 

だから言ったでしょ。

「戻れなくなるかもよ。」

って。

 

トンネルに入ってすぐに言ったでしょ。

「今なら、まだ戻れるよ」

って。

 

君が望んで、出口のないトンネルに入ったんじゃない?

奥に進んで来たんじゃない?

 

しょうがない男。

  

今回だけは、特別に出口を教えてあげる。

 

でも、気を付けて。

出口の寸前には、鎖に繋がってる罠が置いてあるから。

 

真っ暗だから怖いかもしれないけど、そのまま進んでごらん。

 

  

あ。灯りが見えてきたでしょ。

 

明るくなってきたね。

あと少しで出口だよ。

 

元の世界に戻れるよ。

 

あと少しだよ。

 

  

何かが足元に落ちてる。

君は、拾いたくなる。

手を伸ばすと、それが首輪だと分かる。

 

そう。それが罠だよ。

 

首輪には鎖が繋がってる。

パドロックも着いてる。

 

首輪をはめたら、自分では外せないよ。

そこから逃げることも、隠れることも、できなくなる。

 

= = = = =

 

ん?

今、君はトンネルの中?

 

違うよね。

私の前にいる。

夢から醒めたかな?

 

今、君は、私に首輪を差し出されて、悩んでる。

思い出したでしょ?

 

変な夢から醒めたんだね。

 

でもね、喉は渇いてるでしょ。

体も心も冷えきってるね。

心細さと寂しさで、弱ってるんだね。

 

首輪を着けたら、ご褒美をあげる。

口移しに温かいお湯を飲ませてあげるよ。

 

トンネルの夢から醒めても、

心の渇きも、

喉の渇きも、

全然癒えてないから、

 

君は震えているね。

 

温かいお湯で、心も身体も温めてあげる。

大丈夫だよ。

 

首輪をはめてごらん。

 

自分の手で。

 

ちゃんとリードを握ってあげるよ。

喉も心も潤してあげる。

私からの特別なプレゼントで、潤してあげるよ。

 

え? なに?

言ったでしょ。温かいお湯だよって。

 

ん? ばれたかな?

 

そう。

お湯を飲ませてあげるって、嘘だよ。

 

なにか別の、温かいものを飲ませるつもり。

 

嘘ってわかっても、首輪してくれるでしょ。

騙されても、しょうがないよね。

もう喉もカラカラでしょ?

 

何を出されても飲み干せるでしょ?

 

早く首輪をはめなさい。

 

覚悟は出来てるでしょ?

 

パドロックもだよ。

 

大丈夫。 鍵は、ちゃんと返してあげるから。

 

  

 

カチッ

 

  

 

これで、もう外せないね。

 

自分で鍵をかけたんだね。

 

あははは。

 

= = = = =  

 

ん?

君は今、私の前にいるのかな?

 

違うよね。

暗いトンネルの中だよね。

 

私の前で、首輪とパドロックをつける夢みてたでしょ。

 

あはは。

 

気付いた?

あっちが夢で、トンネルが現実。

 

もう逃げられない。

 

君は、出口のないトンネルから逃げられない。

だって自分で鍵を掛けたんでしょ?

 

出口のところに、罠があるって言ったでしょ?

 

  

アキラメナサイ。

 

暗くて、寒くて、寂しいところだけど。

ずーっと、そこで、私のことを待ってるのよ。



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