催眠術師は僕の…

背もたれに身体を預けて、僕は椅子に浅く座っている。
僕の目を、彼女が持つペンライトの光が照らす。
右へ、左へ、ふたたび右へ…。
光が揺れるたびに、ふわふわした感じが強くなって、頭の中が、空っぽになっていく。

いつもの時間の、いつもの場所…。いつもの通りに、彼女がこの場所にやって来たのが、数分前。

いつもの、場所?
彼女って、だれ、だっけ…。
「…ぁ…ぅ……」
「ほら、だめよ…何も考えちゃ。考えちゃだめ」
考えちゃ……だめ。彼女の声が、聴こえる。僕の中に染み込んで、いく。
あぁ、ぼうっとして、気持ちいい。心が蕩けていく…深く、深く、沈んでいく。

頭の中に靄がかかると、目の前の光で、彼女の声で、僕の中が満たされていくのを感じる。

「さあ、可愛い私のお人形さん。今日も楽しみましょう」
そう、僕は彼女の人形…。
彼女の白くて細い指先が、僕の胸元で踊るのを、夢の中の出来事のような気分で見つめている。
1つ…2つ…3つ…。シャツのボタンが外れる感覚…。

「ふふふ、男の子でも、ここ、感じるんだよね」
彼女の指先が、僕の胸に触れる。
乳首の周りをなぞる様に、軽いタッチで円を描くのを感じる。
白い靄に包まれて、ぼんやりとした頭の中がチカチカと光る。
意識がはっきりしないまま、与えられる感覚に身体を震わせている僕に、彼女が顔を寄せる。
僕の耳に、彼女の息が掛かり、甘い囁きが僕の心を、身体を縛る。
「声は出せない。あなたは私のお人形。声は出せない。私の指を感じればいいの。声は出せない…」
彼女の言葉は、そのまま現実になる。
僕は、口から乾いた息づかいだけを漏らしながら、彼女の指の動きに操られるまま身体を引きつらせていた。
「身体をヒクつかせちゃって…ふふ、かわいい」

彼女の声が、頭の中に染み込んで、いく…。
彼女の指が、胸を離れて、僕の指に触れる…。
「さあ、こっちにいらっしゃい…」
軽く手を引かれ、力の入らない足で、ふらふらと立ち上がる。
1歩…2歩…3歩…。そのまま、部屋の隅のベッドへ腰を下ろし、身体が布団の上に崩れる。

ベッドに横たわる僕を、横に腰掛けた彼女が見下ろす。
深い深い、底の見えない泉の水面のような、彼女の瞳に見つめられると、ぼうっとした感じが強くなっていく。
   何も…考えられなくなる。
      彼女の中に、吸い込まれる。
         彼女が、小さく笑っていた。
悪戯めいた微笑を、僕はうっとりと見つめ続ける。
「それじゃあ、そろそろ心を返してあげようかしら…。
 でも、身体はさっきのまま。私の指に踊らされるの……。
 ふふふ、たっぶり恥ずかしがって…ね」

パチン。
軽く手を叩く、乾いた音が響く。
弾けたようなその音が、僕の頭から靄を取り去っていくのが分かる。
ここは…僕の、部屋?
「…う……ん……」
「お目覚めな?ふふっ、気分はどうかしら」
上着をはだけて、ベッドに仰向けになっている、僕。
霞んだ目を凝らして、僕を見下ろす人影を見つめる。
「気持ちいいでしょう…?もう、堪らない。蕩けてしまう、私の指に、全て委ねてしまう……」
つつつ…と指先が胸をなぞる。
「は…ぁ、だ…め……」
上気した表情で、僕は必死に抵抗の声を絞り出す。
それなのに、身体は言葉とは裏腹にまるで動こうとしない。
動かないだけでなく、身体に触れる指先に異常なほど反応してしまう。
自分の身体じゃないような甘い痺れに、気が遠くなりそうになる。
「あらあら、涎まで垂らしちゃって…また、目がトロンとしてるわよ」
僕の身体を弄びながら、楽しそうに囁く声を追い、声の主と目が合う。
「…っ…。ぁ…ぃゃ…や……!」
「あら?何が嫌なのかしら?ここはもう、こんなになってるのに」
視線が僕の下半身へと下がっていき、ズボンの上から敏感な部分をなで上げられる。
今まで一度も触れられていなかったそこは、それだけで跳ね上がるように痙攣してしまう。
「…や……め…て………」
うまく落ち着かない、切れ切れの呼吸の中で、僕は必死に掠れる声で訴える。
「ふふふ…、なぁに?聞こえないわよぉ?
 もっと、はっきり言ってくれないと」
からかうように聞き返しながらも、股間を弄る手は止まらない。
その心地よさに、頭の中がぼうっとして…きて…。
「もう……やめ…て…。おね…え…っ」

カチッ
一瞬、目の前が真っ白になる…。
ペンライトが、目の前で揺れている…ゆらゆら…ゆらゆら……。
「だ・め・よ。私のことを呼んだりしちゃ……。
 いけない子は、もう一度お人形になりなさい」
「…ぁ…ぁ……」
「さあ、これでまた、あなたは私のお人形…。頭の中は真っ白、もう何も考えられない……」
彼女の声が、遠くで囁いている、ぼんやりと耳に届く。
僕の心は、その声を聞きながら、深い淵へと沈んでいく……。

ゆらり…ゆらり…。
揺らめく光に…柔らかな、痺れに…身体が蕩けてゆく…彼女の、虜になる……。

「くす…そろそろ終わりにしようかしら…。
 どんどん駆け上がって行く…、登りつめてゆく…。
 私の指を、もっともっと感じなさい。
 あなたの中の深い所に、この快感を刻み込んであげる」
するっ…。しなやかな指が、僕のズボンの中へ忍び込む。
深い霧の中に沈み込んだ、僕の心は、股間から響く感覚に塗り潰されて、強烈な快感を、強く焼き付けてゆく。
「あは…あなたのココ、こんなにピクピクしてる…。
 いいのよ……イッちゃいなさい…私の手で。
 イッて、私の指の感触を忘れられなくなりなさい…」
彼女の指が、根元から撫で上げる。茎を包み込むように絡める、一番敏感な先端の部分を摘み、ゆっくりと扱く。
背骨に向かって突き抜けるような感覚。
彼女の手の動きが早くなるにつれ、快楽はさざなみから大きなうねりへと広がっていく。
「さあ、イキなさい!全部吐き出しで私の虜になるのよ」
びくっ…びくっ!
あぁ…もう…なにも…かんがえ…られない。
気持ち…いい…心が…全部…彼女の…モノ、に……。


心も、身体も、空っぽになった僕に、彼女の囁きが聞こえる。


「ふふふ…たくさん出したわねぇ…。気持ちよくて、たまらなかったわねぇ。
 さあ、もうあなたは目を開けていられない…。
 すごく眠い…瞼が重い…もう目を開けていられない…。
 ゆっくり、眠りに落ちなさい…。
 眠ったら、全て忘れるの…。今あったことは、全て忘れる…」
彼女の言葉が、頭の中に響いて、僕の心はそのまま、深い所へと落ちていく。
「夢精しちゃった、なんて、考えるのかな…。
 くすくす…明日も、遊んであげるわね。また、可愛い声で鳴いてね」

彼女の立ち去る気配を、朦朧とした意識のなかで感じながら、僕は忘却の淵へとまどろんで行った………。


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