1、獣の感覚。
――――――――

さあ、私の声が聞こえるか?

君は獣の感覚を持ちたいと望んだ。
それが君の望みかね?‥‥宜しい。

今回は‥、そうだな‥『犬』。
良いね?
良いなら頷いて。‥‥宜しい。
さあ始めよう。


では、息を吸って、吐いて。
そうだ、リラックスしたまま。

吸って、吐いて。
吸って、吐いて。
吸って、吐いて。
吸って、吐いて。

そう。そのまま繰り返して。

これから君の身体に手を加える。私が手を翳したところから、暖かな光があふ
れていく。


目を閉じて。
‥‥まずは頭だ。
暖かな光に包まれて、だんだんと耳が大きくなる。
髪の毛が柔らかく、艶をおびていく。
鼻も少し小さくなって、頬から細く長いヒゲが生えてきた。

ほら、少し周りの匂いが変わってくる。
君の嗅覚が鋭くなった証だ、ゆっくり慣れていこう。

呼吸はそのまま。
吸って、吐いて。


次はお尻。
私が手を翳すと尾骨の辺りが光に包まれて、むず痒くなってくる。

だんだん感覚が変わってくる。
尾底から尻尾がゆっくり伸びてくる。

わかるか?
ゆっくり、ゆっくり伸びてくる。

ほら、ふさふさした尻尾が伸びてくる。
そう、彼等の尻尾の感覚は、例えるなら性器に近いそうだ。

私が合図をすると、君は人間の感覚から動物の感覚に完全にシフトする。
触覚や味覚、嗅覚‥‥それらが更に敏感になる。
さあ、呼吸を止めないで。


3...2....1.....☆


少し気持ち悪いか?
覚醒とは本来、気持ち悪いものなのだ。君も眠りから目覚めさせられた時の不
快感を知っているだろう?

だから、呼吸を止めずに。
ほら、吸って、吐いて。

だんだん慣れてきただろう?
ほら、匂いを嗅いでみよ。耳を澄ませてごらん。


もう君は犬だ。可愛い可愛いワンちゃんだ。
ほら、尻尾が揺れているぞ。
頭を撫でてほしいのか?
撫でてやろうか。

私の手の感触を感じるか?
耳を掠める感覚も、頭を撫でる感覚も、普通に髪を撫でられるより心地良いだ
ろう?

髭も触ってやろう、どうだ?
髭も感覚器官のひとつ。くすぐったいような痺れた感覚があるだろう?

次は尻尾も撫でてやろう。


‥‥気持ちいいのか?身体が震えているぞ。

しかし、例えどんなに気持ちが良くても、絶頂‥オーガズムに至ることはない。

何故なら君は犬だから。無駄な絶頂は迎えない。


お腹も撫でてやろう。ほら、出して。
さて、動物にとって一番弱いところはどこか、知ってるか?
‥それは腹だ。上の立場のものに敵意がないと示すとき、服従を示すとき、そ
こをさらけ出す。

君はいまそこを私にさらけ出している。私に触られて気持ち良くなっているの
だ。
人に弱みをさらけ出す、普段なら考えられないことよな?

もどかしいか?もっと触ってほしいか?

ならねだるがいい。ほら、言ってみろ。
もっと撫でてほしい、と。

そう、私に求めたまえ。求める程に気持ちが良くなる。
求めた分だけ、与えられる。

何が欲しい?何を得たい?

絶頂がほしいか?幸福がほしいか?
さあ、声に出して私に求めて。


‥‥宜しい。
なら絶頂を与えよう。


私が手を叩くと同時に君は絶頂に至る。
ただし、射精はない。内側からくる絶頂に至るだろう。


さあ、もう我慢ならないだろう?

5..

身体が震えてきた。


4...

呼吸が乱れてきた。


3....

声を上げても良いのだぞ?


2.....

ほら、涙と快楽が込み上げてくる。


1......

もう戻れない。


.......☆


一回では終わらない。


.......☆

もっと幸せになりたいだろう?

.......☆

もっとさらけ出したいだろう?

.......☆

もう君は戻れない。


.......☆



もう君には聞こえてないか?
まあいい、それでも聞きたまえ。

これから君は私に『ワンちゃん』と言われる度に、犬の感覚が蘇る。
君の中には、今日から犬である君が住まうのだ。


そして、その主である私の名を教えてやろう。

私は言葉のWicth。またの名を『蒼き霧の魔女』。

私の名は『ヴェルデリア』

私の名は『ヴェルデリア』。


さあ、目覚めたまえ。
現世に還る時が来た。

私が3つ数えた時、君は緩やかに現世へ還る。そしてそのまま眠りにつくだろ
う。

さあ、現世に還りたまえ。

忘れるな、私の名を。
お前の主は私なのだから。


3...2....1.....☆



―――――
『外伝的後語・獣』
(これは魔女と、ある男の対談話。いわゆる後書きとかおまけSSとかそんな
ものです)

白い部屋。正八角形をした部屋を囲む7つの窓。窓のない処は大きな扉。
扉の向にはソファが2脚、小さなテェブルと紅茶セット。

ソファに座るは男と魔女。
男は白い山羊髭を垂らした禿頭の老人。眉も白く、髪も白い。
スーツは紺色。深い蒼。

対するはワインレッドのドレス纏いし魔女、髪は橙、ドレスには剣の模様。

無言の会話を有言に変え、
口火を切るは老人の口。

老人『見させてもらったぞ、魔女よ』

魔女「ふふふ‥如何でしたかな?教授」

教授と呼ばれし老人の右手。
紅茶を注ぎしその右手。
刻まれしは剣の模様。

教授「お前も人に干渉する愉しみを覚えたのかね?」

魔女「そのとおり。私は干渉するのが愉しいし、彼等は干渉されたがってるの
だから」

老人「まるでゲームだ」

魔女「そうですよ、これはゲーム。彼等と私の」

沈黙する老人。
微笑う魔女。
湯気を立てるカップの紅茶。

魔女「では教授、私とゲームでもしようではありませんか」

教授「ゲーム?」

魔女「そう、ゲーム。」

魔女は語る遊戯の法則。
老人は知る円舞の音楽。
回るよ回る円卓の宝剣。


魔女「我はこれよりゲームの法則及びその他事項について宣言する」


それではこれで、一先ずの終焉。




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