突きつけられた指から目が離せない。

高校受験を一週間後に控えた、肌寒いある日。机をはさんで僕らは向かい合っ

ていた。

目の前の女子の――幼馴染の美香――形の良い唇が笑みに歪められた。

瞬間、背中に何か薄ら寒いものを感じた。冬の自然の寒さとは全く違う。何か、

不気味な――

 

「ふふ、どう? 弘樹。動けないでしょ?」

 

可笑しそうに笑いながら尋ねてくる。黒い瞳の奥に妖しく輝いている光が、僕

を捕らえて離さない。

美香の言ったとおり、僕はなぜか動けないで居た。

 

 

昼休みの時だった。

いつものように、自分の席で参考書片手に弁当を食べていた僕の元に、ふらり

と美香は訪れた。

美香とは、小学生のうちは家が近いこともあって、毎日のようにお互いに馬鹿

やってたけれど、中学に入った辺りから疎遠になっていた。

毎年同じクラスにならなかったこともあるし、何より、僕らの年頃になると顕

著に現れ始める男女間の体の差異が

誰よりも近く接していた美香に対して僕に急速に『女性』を意識させて、妙に

恥ずかしくなったのもある。

最初の数ヶ月はよく遊びに来ていた美香も、そんな僕の態度を察したのか、そ

れとも呆れたのか、気づけば滅多に会うことも無くなっていた。

 

「今日の放課後。特に用事がなかったら5時に3−2に来てね。いい?」

 

そんな美香の、突然の来訪に思考を停止させている僕にも構わずに、彼女は言

う。

酷く久しぶりに見たような美香は、記憶の中のそれよりも、遥かに綺麗になっ

てるように思えた。

いつか、この頃の女の子は化けるのよ、良い方にも悪い方にもね――と、今は

家を出て寮住いをしている姉さんの言葉を思い出す。

そういえば、確かに姉さんもこの頃妙に色気づいていたな。あの頃は特になに

も思わなかったけれど。

 

「いい? 忘れないでね? もし、勝手に帰ったら――お仕置きしちゃうから」

 

 

未だ何が起きたかを把握できずに、生返事ばかりし続ける僕を置いて、さも用

が終わったとばかりに美香は教室を出た。

幸い昼食時の教室は煩くて、誰とも一緒にならずに一人食べていた僕と美香の

会話を聞いた人は誰も居なかったらしい。

ちょっと珍しいお客様、と言った感じで、周囲の喧騒は耐えることはなかった。

その事に少しだけ安堵する。

きっと聞かれていたら人の色恋話が好きなクラスメイトに暫くの間質問攻めに

会うことだろう。

今時珍しい清楚な風味の和服美人――美香の実家は江戸時代から続く旧家らし

い――として美香はちょっとした有名人だった。

一年生のときの文化祭の時に取られた着物姿の美香の写真が、上級生の間でも

少しばかり高値で取引されていた事を思い出した。

 

 

そして、今に至る――

 

 

状況が分からずに焦る僕を尻目に、美香は酷く嬉しそうだ。

請われるがままに美香の、細く透き通るように白い肌の人差し指を見つめ始め

て一分ほど経った辺りに変化は訪れた。

最初は、首からだった。ただただ指を見つめ続ける事に飽き始めていた僕は首

を動かして受験勉強もあって凝った肩をほぐそうとした。

 

 

・・・・・・うご・・・・・・かない?

 

 

どんなに力を込めてもぴくりとも動かなくなっていた。予想外の事態に慌てる

うちにそれは少しづつ体中に伝播していく。

気づいた頃には爪先から頭のてっぺんに至るまで、一部を除いて全く僕の思い

通りにならなくなっていた。

それは、美香が指を下ろしても変わらなかった。明らかな焦りの表情を浮かべ

る僕を美香は愉しそうに見ている。

 

「美香、これはどういう・・・・・・なんで笑ってるんだ!」

 

戸惑いと怒りを滲ませて叫ぶように問う。そんな僕の姿が余程滑稽に見えたの

か、耐え切れないように美香は声を立てて笑い出した。

 

「あはは、ごめんごめん。まさか、こんなに簡単にかかるとは思わなくて・・・・・・

他にも色々用意してきたのに」

 

「かかる? どういうこと?」

 

「催眠術」

 

瞬間、美香の表情から笑みが消え、普段は穏やかな印象を与えさせると評判の

整った顔がひきしめられた。

その急激な変化に僕は何故か唐突に不安に駆られる。いや、それは当然の反応

だ、だって――

 

「さいみん・・・・・・じゅつ?」

 

「そう、催眠術」

 

言いながら、近づいてくる。

足音も立てず、その歩みはとても遅い。

 

「なんで、そんな事を・・・・・・?」

 

言い終わる頃には、美香の瞳が目の前に迫っていた。男の割りに背が低い僕と、

女の割りに背が高い美香。

並ぶと大体同じ身長だった。美香の長く黒い髪から、何かの花の香りのような、

甘く、妖しい香りが漂ってくる。

 

「弘樹は知らなくていいの」

 

言い終わるや否や、背後にあった机に押し倒される。硬い角が背中の中心辺り

にあたって、痛みに呻き声が漏れた。

 

「な、に・・・・・・」

 

「眠りなさい」

 

唐突に、そう、何の前触れもなく意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虚ろになった瞳で私を見上げる幼馴染を眺める。

余りにも呆気なく事が進みすぎて正直拍子抜けしていた。でも、正直そんな事

は関係ない。

中学に入って、弘樹が私を避けだしたあの頃から待ち望んでいた時が目の前に

迫っている。

 

「ごめんね、こんな方法でしか出来ない私を許して」

 

心から謝る。この優しい幼馴染に拒絶されることが怖かった私は、とても卑怯

な手で弘樹を手に入れようとしていた。

 

「一杯一杯愛してあげる。他の誰よりも、何よりも、貴方のことを」

 

これはせめてもの誠意。身勝手な理由で弘樹の心を縛る私のケジメ。

今の弘樹は厳密には”眠っている”わけじゃない。私の言葉によって酷く暗示

を受けやすい状態になっただけ。

 

「ん・・・・・・」

 

そんなに動けないことに恐怖していたのか。かさかさに乾燥した弘樹の唇を少

し舐め取る。

意識は止まっていても、体は反応するみたいで、力なく垂れていた弘樹の指が

ぴくんと身じろいだ。

そこで――我慢できなくなった。

 

最初は軽く唇をつつく。気持ちがどんどん逸ってきて触れ合ってる時間が少し

づつ長くなっていく。

舌を少し開いた弘樹の唇の間に突き入れた。

硬く閉じられた、すこしざらりとした歯を舐め取ると、喘ぐように間が開く。

間髪いれずに奥まで舌を入り込ませる。

自然と、吐息が漏れている。人気がなくなったとは言えまだ校内に誰か残って

いる可能性も高い、けれど、興奮した自分を止める事は出来そうにない。

どれほどそうしていたのか、わからなくなっていた。甘い痺れの残った舌を抜

いて、口から新鮮な空気を吸い込んだ頃には、陽はもう落ちかけていた。

 

押し付けた体の、下腹部の辺りに何かでっぱりを感じる。少し体を離して見る

と、弘樹のソレが服の下から明確にその存在を主張していた。

時計を見る。巡回の先生がここに来るまでまだかなり時間があった。股の部分

をこすり合わせると、ぬめりとした感触が伝わってくる。

体の高ぶりを抑えきれずに、私は弘樹のベルトを解いた。

 

「う・・・・・・あ・・・・・・」

 

「待ってて、私も、準備するから・・・・・・」

 

言って、ぐちょぐちょにぬれたパンツを脱ぎ捨てた。湿った音を立てて白いレー

スのそれが床に落ちる。

焦りながらも弘樹のズボンを下ろすと、始めてみる弘樹のソレが私の前に現れ

た。

 

「大きい・・・・・・」

 

少し怖い。でも、それ以上に愛しさが強い。

先端の、ちょっと赤く染まった部分に息を吹きかけると、呻き声と共にソレが

ぴくんと揺れた。

鼻を近づける。漂ってくる臭いに少し戸惑ったけれど、下腹部のぬめりがひど

くなった。

 

「弘樹、初めてだよね? 恋人いなかったみたいだし・・・・・・私も」

 

言って、弘樹のソレを自分の局部にあたがう。友達は慣らさないとすごい痛い

って言ってたけれど、きっと大丈夫。

 

「くぅ・・・・・・」

 

何度か失敗して、5度目で、ようやくソレの先端が私の中に入ってきた。

硬いものが体を裂いて自分の中に侵入してくる感覚。――痛みで、おかしくな

りそうだった。

溢れてくる私の液が、気休め程度の潤滑油になる。話に聞いていたとおり――

聞いていた以上だった。

両手の指を机の端から垂れていた弘樹の指をとってからませる。手のひらから

伝わってくる体温が、私に勇気をくれた。

 

「あ・・・・・・ぁ・・・・・・奥、まで・・・・・・」

 

たっぷり数分かけて、ようやく弘樹のソレが完全に私の中に埋まった。

痛みと同時に幸福感で胸が一杯になる。頬に何か冷たいものを感じた。気づい

たら泣いていたみたい。

弘樹の顔を見る。その表情も気持ちいいのか不自然に歪んでいる。唇の端から

垂れた涎を舌で舐め取ってあげる。

 

暫く余韻を味わうようにそのままでいた。静かな教室に時計の針の音だけが響

いている。

だんだんと下腹部の痛みも慣れてきたのか引いてきた。変わりに淫らな感触が

どんどんと這い上がってくる。

 

「あ、ぅ・・・・・・美香・・・・・・」

 

耐え切れなくなって腰を動かした。それが気持ちよかったのか、うわごとのよ

うに弘樹が私の名を呼ぶ。

最初はゆったりとした動きだったそれも、回数を重ねるごとにだんだんとその

速度を上げていった。

止まらない。

絶え間なく全身を駆け抜ける麻薬のような快楽に体が支配されている。

私の下で喘いでいる弘樹への愛しさが溢れて、私も気づけば弘樹の名を何度も

呼んでいた。

周りへの警戒も忘れて一心不乱に腰を振る。私の一挙一動に合わせて震える弘

樹のソレが心地いい。

体の中に何かが少しづつ染み込んでくる。きっとそれは、先走りという物なん

だろう。

弘樹が私で気持ちよくなっているという事実が、私の動きをますます加速させ

ていく。

 

終末は突然だった。

 

 

私の中のソレが突然震えだしたかと思うと、体の中に何かが激しく叩きつけら

れた。

予期しないその感覚に、私の意識も一瞬飛ぶ。体中が一瞬、硬直した。

 

「ひろ・・・き・・・・・・嬉しい」

 

浮遊感に包まれながら、私は手をついて弘樹から身を離す。

性器からごぽっと音を立てて溢れた液体が、股を伝って床にたれ落ちた。

ハンカチを取り出して弘樹のそれを拭いてやる。おろしたズボンもあげて、乱

れた服も直した。

 

「聞こえてる? 聞こえてるなら、一回頷いて――そう」

 

一通り身支度を整えてから、私は弘樹に語りかける。

 

「貴方は私を拒絶できない。貴方は私の言葉に逆らえない」

 

「不思議と貴方は私を求めてしまう。いつでも、どこでも私のことが頭から離

れない」

 

これは、とても卑怯な手段だと、自覚している。

私は弘樹に拒絶されるのが怖くて、想像することも出来なくて、今、こんな手

段で弘樹を縛りつけようとしている

でも、どうしようもないよね? だって、私・・・・・・弘樹のことが

 

「分かったら・・・・・・私を、抱きしめて」

 

 

目を瞑った私を、弘樹の、固くて暖かい体が包み込んだ。

どうしようもない罪悪感と幸福感で胸が一杯になる。自然と、弘樹を抱く手に

力が篭る。

 

 

ごめんね、ごめんね

私がずっと、愛してあげるから。だから、弘樹も――




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