過去と希望


仕事の帰りに道を歩いていると男は唐突に妙な女性に声をかけられた。
「あの…すいません、私と一緒にきてくれませんか?」 声の主はとても綺麗な女性だった。
それに「遊んでいる女」と言うよりは「清楚な女性」というような印象を受けた。 男はそれを拒否した。
相手は明らかに成人にすらなっていない。

そんな女性と一緒に歩いているところなんかを見つかると、社会的にも問題がある。
「お願いします!待ってください!」 彼女は俺の服のそでをつかんだ。 いったいどうしたというのだろうか。
「どうしても…あなたに来てほしいんです。」
女性のあまりにも必死な顔に男は話を聴くことにした。
「行く場所は私の家です。 理由は今は話せません。 安心してください。
あなたを問題に巻き込んだりなどというようなことはぜったいにしません。」
「…いいんですか?ありがとうございます! では、行きましょう。私の家はすぐそこです。」
二人の目の前には変哲も無いマンション。 「では、行きましょう。」 部屋は3階にあった。
「どうぞ入ってください。」 男は家の中に入っていった。

荷物の量からして一人暮らしなんだろうと男は見当をつけた。
「ちょっとそこに座っていただけますか?」 男は素直にその指示に従った。
「お願いが一つあります。 これから私が言うことに疑問を持たないで、素直にその指示に従ってください。」
男はうなずいた。

「では、初めます。 まずは目をつぶってください。」
男はその通りにした。 「続いて、ゆっくりと深呼吸をします。
すって… はいて… すって… はいて… すって… 息を吸うと身体がぼんやりと暖かくなってきます はいて…
息を吐くと少しずつ身体から緊張が抜けていきます では、次に行きましょう。
今、あなたの前にはとっても甘い匂いのする香水があります。
いまからそれをあなたに吹きかけます。
それを嗅ぐとあなたの思考がぼんやりしていきます… ではかけますよ シュッ…
ほら、息を吸ってください いいにおいがするでしょう?
もう一回かけますよ… シュッ…
ほら、どんどんぼんやりしてきた シュッ… もう何も考えられない…
今、あなたはぼんやりしていますが、私の言葉だけは理解出来ます。
では、少しずつあなたの心の深いところへと行ってみましょうか 貴方は昨日の夜ご飯に何を食べましたか?
無理に思い出す必要はありませんよ 振り返ろうとすることに意味があるのですから…
では続いて貴方がまだ小さかった時のことを思い出してみましょう…
小学校のとき… 夏の日の事を思い出してみましょう… 朝の陽の光と匂い…
独特な心地よさがありましたよね それを思い出してください…
貴方はとても綺麗な輝きの中にいます… ほら、その先に貴方が好きだったあのこがいますよ…
ほら、あの子が貴方のことを呼んでいますよ?
ほら、行ってください。 きっと楽しめますよ?
ほら、あの子は貴方といられてとても幸せそう。
貴方も次第に楽しくなってきます。 さて、心はすっきりしましたか?
そろそろ時間です。 貴方はもとの世界に戻らなくてはなりません。
ほら、女の子にお別れを告げてください。 そんな、泣きそうにならないで。
大丈夫だから。 あなたはいつでもここに戻ってくることができるの。
だから安心して? お別れを告げられた女の子も少しなきそうね。
ちゃんと、また来るって約束をしてあげて?
ゆーびきーりげーんまーんうーそついたーらはーり千本のーます 指切った!
ほら、ちゃんと約束したら女の子も泣かなくなったね。
じゃあ、私たちはもとの世界にもどりましょう。
もとの世界に戻っても貴方は女の子と再会した、ということだけは絶対にわすれません。
これから誰かと付き合ったり結婚したりしても、
今、この時のことを淡い思い出としてずっと覚えています…
さて、もう時間切れです。 もとの世界にもどりましょう。
私が0まで数えて手を叩いたら貴方はもとの世界に戻ります。
5 4 3 2 1 0 パチン 貴方はこのまま眠りの中へと落ちていきます…
おやすみなさい、良いゆめを… …

おはようございます どうしちゃったんですか?
涙なんか流して。
なにか悲しいことがあった…というわけでもなさそうですね。
夢…?夢を見ていたんですか。 それは…そうですか。
きっと、良い夢だったんでしょうね。
大丈夫、あなたなら。 いえ…なんでもありません。
なんですか? またここに来てもいいかって?
ダメですよ。

ここは貴方を支える場所ではなく、貴方の背中を押してあげる場所なんですから。
大丈夫。貴方は一人で生きていけるから。
さて、では外へと出ましょうか。
きっと大切なものが貴方を待ってくれていますよ…」 fin





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