ある私立の女子高校に、奇怪な事件が発生した。

授業が終了し、教室の清掃も終わって当番にあたっていたひとりの女子生徒がトイレに入っている時であった。

女子生徒の名は比良雅夜(ひら・まさや)といって、体型も大柄な少女だった。トイレの便室から出て洗面台の前に立ち、頭の上にまるめていたおだんごをほどいていた。おだんごの髪の毛には両サイドの前髪をそれぞれ三つ編みにまとめて交互にまきつけていたが、清掃で少し汗をかいたので髪を整えなおそうとしていた。髪が解かれて両方の肩の上から腕のほうに滝のように流れていき、はいている制服のスカートの下裾をも通り過ぎて膝裏からもう少しで床に届くかもしれないところまで降りていった。雅夜は小さい時からずっと髪の毛を長くしてすでに入学する時でも腰まで届くほどあったためにより長い髪になっていたが、容貌には自信がなく体型も足も太っていたので、前髪も切らない長い黒髪だけを気に入って大切にしていた。その1メートル以上はある黒髪を念入りにヘアブラシですいていた時、天井を一匹のクモがはっていたのである。

そして、クモが天井から横の壁におりてきて、雅夜がブラシをかけ終えた髪をふわっと背中のほうへ一度に払った時に、雅夜の髪がそのクモにかかり、クモが髪の毛のなかに侵入していったのである。

雅夜「うっ、なに?なんだか、い…い、息苦しくなってきたわ。」

雅夜は顔をあげてまた洗面台の鏡を見たが、顔の両側から不気味な泡のようなものが、それもどんな色なのかわからないようなえたいのしれないものが広がりはじめ、雅夜の顔をおおってきたのである。

雅夜「きゃあっ、いったい何なの?わたしの顔が…。」

とうとう雅夜の顔全体をまだらの液が覆ってしまい、のっぺらぼうのようになってしまった。

便所から廊下に出た雅夜の背中におろされた超長い髪の後ろ姿を、同じクラスで掃除当番にあたっていたもうひとりの女子生徒である遠田博子が見つけて声をかけた。雅夜と大きく異なって髪の長さは肩にかかる程度のおかっぱだった。

博子「雅夜ちゃん、帰りましょう。あら?髪の毛ほどいたままじゃおこられるわよ。きゃあーっ!」

長い黒髪から振り向いた雅夜の液に覆われた顔を見て、博子が驚き、気絶して倒れてしまった。

やがて、雅夜の顔を覆っていたまだらの液は消え、もとの顔に戻っていたが、雅夜の表情はどことなく不気味になっていた。しかも、雅夜の顔の頬にはクモの痣がうつし出されていた。

雅夜「うふふふ。」

雅夜は自分の長い髪にかけていたヘアブラシを、そのまま直接博子の髪にかけてとかし始めたのである。

雅夜「くくくく。」

しばらくすると博子の髪のはえぎわあたりからもまたまだらの液が現われ、首から顔にひろがっていった。そして顔を覆っていた液が消えた後、やはり博子の頬にもクモの痣がうつっており、雅夜が博子の頭上に手をかけると不気味な表情で起き上がっていた。その起き上がった博子に雅夜が声をかけ始めた。

雅夜「うふふふ、おまえはわたしの下僕になったのだよ。ひとりずつ、ほかの者をわたしのところへ連れておいで。」

博子「わかりました。雅夜さま。」

こうして、博子が命令どおりまた学校に残っていた別の女子生徒をつれてくると、雅夜は同じように女子生徒の髪の毛に自分の使っていたヘアブラシをかけさせていった。髪から毒液あるいは実際に小さなクモが侵入していったようで、このように少女の髪の毛に侵入して、その人間を変なふうにするこのクモは、恐ろしい毒グモなのである。襲われた者はクモ女となって、またべつの者を襲ってクモ女にしてゆき、雅夜に襲われた女子生徒のうち博子のようにあまり髪の長くない者は効果が低いためか他人を下僕にすることはできなかったが、ほかにいたより長い髪の女子生徒がさらにまた別の女子生徒を同様に襲ってクモ女をふやしていた。ちなみに、束ねた髪やツイン・テールあるいは三つ編みにまとめていたおさげ髪でもブラシをかけなくても、クモ女になっている者の髪の毛がかかって毛先で髪をなでられたりするとクモがとびうつっていったり、毒液が髪を伝わって洗脳されてしまうのである。

 

 

わたしの髪に毒ぐもが

 

登場人物

鈴森幸子(すずもり・ゆきこ)…高校一年生

比良雅夜(ひら・まさや)…幸子のいとこで同い年

比良乃里予(ひら・のりよ)…雅夜の妹、中学二年生

比良久美子(ひら・くみこ)…雅夜の妹、幼稚園

比良伸枝(ひら・のぶえ)…雅夜の母、幸子から見て叔母

遠田博子(とおだ・ひろこ)…雅夜の同級生

鈴森文子(すずもり・ふみこ)…幸子の母、伸枝の姉

鈴森美智子(すずもり・みちこ)…幸子の妹、小学六年生

鈴森嗣美(すずもり・つぐみ)…幸子の妹、小学三年生

鈴森裕美也(すずもり・ゆみや)…幸子の弟、小学一年生

 

 

ここは、鈴森幸子の家であった。その日の朝を迎えて、ベッドから目覚めた高校一年生の幸子は寝間着姿のまま洗面所に向かっていた。洗面所にはすでにふたりの妹である美智子と嗣美がいて鏡の前でそれぞれ自慢の長い黒髪をとかした後、いつもよくしている髪形になるようにしていた。小学六年生の美智子は頭におだんごを作ってから一本の三つ編みにまとめて背中の真ん中ぐらいまでポニーテールのように垂らし、小学三年生の嗣美も髪をふたつに分けてそれぞれ三つ編みを輪にして耳もとのところに白い小さなリボンでくくっており、ほどけばやはりお尻まで届く長さである。

母親の文子も出て来て、朝の食卓に全員が揃った。父親は単身赴任中でずっと家にいない。

幸子「いただきまーす。」

小学一年生の弟である裕美也がいちばんおとなしい食べ方だった。裕美也も実は髪の毛を伸ばしていて、白いヘアゴムで一本に束ねた髪を背中に垂らしている。幸子は妹たちのように髪を長くしたことがなく、ずっとおかっぱで通してきている。いとこの雅夜たち三人姉妹もみな髪の毛を腰以上にとどくほど長くしているので、親戚じゅうで幸子だけは髪の毛が短いままである。それでもいちおう耳は隠れるほどある。

裕美也「行ってきまーす。」

裕美也は遠くにある私立の学校に通っているため、ひとあし先に、朝食を終えて家を出ていった。妹たちもそれぞれ出かけて、幸子の通う高校は家のすぐとなりにあるために、幸子がいちばんゆっくりしていた。

 

幸子のいとこである雅夜の家はすぐ近くにあるが、ちょうど学区の境目が通っているため、同じ学校には通っていない。その日の夜、その雅夜の家には恐ろしいことが起こりつつあった。雅夜が妖怪の毒グモに襲われて家に戻っていたからである。

雅夜のふたりの妹のうち、雅夜のすぐ下の中学二年生である乃里予も大柄で太っているが、すぐ上の姉の雅夜と同じようにやはり両サイドの前髪も伸ばしていて後頭部にひとつの黒いヘアゴムでくくってさらに一本の三つ編みにして後ろの髪といっしょに背中におろし、お尻を隠すぐらいあった。太っているために髪の量も多い。だいぶ年が離れるがいちばん下の幼稚園に通う久美子も耳の上に白いヘアゴムをまとめているツインテールで腰まで届いていた。母親の伸枝も頭に巻いて髪止めをしているが、ほどくと床につくくらいあるという、家族揃って長い黒髪の持ち主だった。幸子の父親と同じく、ここの家の父親も外国に単身赴任中でずっと家に帰っていないが、幸子の父親が雅夜たちの父親の兄になるが、彼らも女性は長い髪の者が好きでそれぞれ実際にロングヘアであるいまの夫人と結婚したようなものであった。

伸枝「遅かったわね、雅夜、どこへ行ってたの?まだ制服着ていて。それに、からだの感じがなにかおかしいみたいよ」

雅夜「ええ、なんでもないわ」

伸枝「着替えるならさきにおふろにはいりなさい。汗をたくさんかいてるみたいだから」

雅夜「わかったわ」

母親の伸枝に諭されて、かばんを自分の部屋に置いた雅夜は私服と着替えの下着を持っていって、膝まで届いている自慢の長い髪の毛を激しく揺らせながら、おふろ場に急いでいった。学校でいったんほどいていた前髪をもとの三つ編みに結い直していたが、後ろの髪は背中におろしたままでおだんごには戻していなかった。

雅夜のすぐ下の妹である乃里予がふろ場の前にある更衣所に入っていた。ふろ場と反対側にあるトイレに行くためである。更衣所に、雅夜の下着も制服も脱いであったので、雅夜がおふろに入っているものと思って乃里予はトイレのノブに手をかけた。すると、なかには鍵もかけずに雅夜が裸で後ろを向いたまま立っていたのである。しかも、片手を口にあてながら不気味に笑っていた。

乃里予「ま、雅夜ねえちゃん、トイレだったの?」

雅夜「うふふふ」

二本の三つ編みにしていた前髪は両方とも前に垂らしていたが、すぐにぽんと背中に払って雅夜の背中におろされ、毛先がお尻に届いていた。

乃里予「はっ、雅夜ねえちゃん…」

雅夜「くくくく」

雅夜の三つ編みにしていた両側の前髪の編み目に、何匹ものクモが現われてその三つ編みの髪の上をはっていたのである。

乃里予「きゃあーっ!雅夜ねえちゃんの髪の毛にクモが…」

しかも雅夜の身体は、腕も首も毛むくじゃらになっていった。そして、乃里予のほうをついに振り向くと、雅夜の顔じゅうも毛むくじゃらになっていたのである。そして、両手の指先には恐ろしいとがった爪が見えていた。雅夜はクモ女になっていたのである。

乃里予「きゃあーっ!」

雅夜「見たわね」

姉の恐ろしい姿を見てしまった乃里予は…。

(つづく)




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