第四話

幸子の入浴中、恐ろしいクモ女たちが迫っていた。ついにふろ場の扉が開かれていた。

幸子は、頭をシャンプーで洗ってシャワーをかけている最中だった。扉の開く音がして、その手をいったんとめて振り向いた。

幸子「だっ、だれ?おかあさんや伸枝おばさんまで、雅夜さんも、いったいどうしたの?あっ。」

雅夜「くくくく。」

嗣美「うふふふ。」

美智子「くくく。」

不気味な笑い方をする母親や妹、親戚の者たち、ようすがみんなおかしそうと思っていた幸子だったが、自分の親や姉妹までも同じように侵されていることにはより驚きを感じるのであった。

幸子「みんな、まだわたしおふろにはいってこうして頭を洗っているさいちゅうなのに、しかも大勢で服を着たままで、あっ。」

狭い扉の間からみんなが競ってなかに入ろうとしたため、たがいに身体がもつれているのであった。その足がだんだんみんな毛むくじゃらの足にかわっていく。垂れていた手首もクモの手にかわっていったのである。

幸子「きゃあーっ、みんなが…。」

乃里予「くくくく。」

久美子「くくくく。」

裕美也「うふふふ。」

幸子は、唯一男の子である裕美也には裸体を見せられないと思い、止めていたシャワーをまたつけて裕美也の顔に目がけていた。

裕美也「ぐぇーっ!」

思わぬ奇声を発してしかも背中を向いて逃げ出したのである。

幸子「なあに?どうやら熱いのに弱いようね、それならみんなも。」

幸子はほかの者にも向かってシャワーをかけはじめた。すると、みんなもだえはじめて逃げ出していったのである。

文子「ぐええええ!」

伸枝「ぎゃあーっ!」

しかし、母親たちの変わってしまった姿に、幸子も驚きを隠せないでいた。

幸子「この家の者がみんなあんなふうになってるなんて、急いでなんとかしなければ。」

幸子は入浴を中止し、服を着直していた。

家のなかは不気味に静まりかえっていて、どうやら自分のことを恐れてみんな逃げたのだろうかと幸子は思った。幸子はどこか相談できるところはないだろうかと携帯電話のインターネットから情報を調べていた。

幸子「もしかして、ここに電話すればわかってもらえるかもしれないわ。」

電話を受けたその機関からは、とりあえずこちらに来てもらうようにとの話だったため、幸子はタクシーをつかまえて向かっていった。

 

幸子「ここだわ。」

妖怪研究所と銘打った建物にようやく着いた幸子が入り口のチャイムを押した。夜中でも活動が続けられているというその研究所からひとりの女性研究員が白衣をまとってあらわれたのであった。

藤岩「はじめまして。私は藤岩木綿子(ふじいわ・ゆうこ)という妖怪研究をやっている者です。よろしく。」

幸子「はい。」

マッシュルームの清楚な感じの女性だった。幸子は、まず安心して相談できる相手だと思った。建物のなかの一部屋に案内された。

藤岩「さっそくですが、どうされましたか?」

幸子「実は、わたしの家や親戚の者が…、ううっ。」

藤岩「思い出すのも苦しいかもしれませんが、落ち着いて話してくださいね。」

幸子「はい。みんな恐ろしい目にあってしまっているんです。からだがクモのような…。」

藤岩「すると、あなたのおかあさんや妹さん、いとこの子どもたちがクモ女になってしまっているというのですね。」

幸子「ええ。」

藤岩「ちょっとその子たちのことを調査してみますので、もう夜中で睡眠不足になるかもしれませんから、この建物にある休憩室へ行って寝ていなさい。目がさめたら私にいろいろきいてみてくださいね。」

幸子「はい。」

 

いっぽう、幸子の攻撃を受けて逃げていったクモ女たちは屋根裏に隠れていた。

久美子「はあはあ。」

美智子「幸子ねえさんの力にはかなわないわ。」

雅夜「みんな、いいわね。いま、わたしたちの女王様がここにやってくるからよくその方のおっしゃることを聞いているのよ。」

乃里予「女王様って。」

雅夜「ほら、あそこに張り付いている糸をつたっている光が、あれがそうよ。」

嗣美「もうすぐこっちへやってくるわね。」

雅夜「うふふふ。」

雅夜のほか、ふたりの妹やいとこの少女二人が起きていたが、ふたりの母親と唯一男の子である裕美也は倒れたままである。

乃里予「ママたちも起す?」

雅夜「その必要はないわ。女王様はわたしたち子どもだけでじゅうぶんということよ。」

乃里予「雅夜ねえちゃんにはすぐ通じるのね。」

美智子「あ、来た。」

糸をつたっていた光が少女たちに近づき、光がだんだんと大きくなると、そのなかから女王という者が姿を現わしていた。その名のように、顔だけが人間の女であって、まわりは八本の手足などすっかりクモの身体になっている怪人であった。

女王「おほほほ、みんなそろったわね。はじめてお目にかかるけど、おまえたちはわたしによって選ばれた最初の戦士たちよ。」

雅夜「お目にかかれまして、光栄です。」

女王「うふふふ。」

女王は。まず雅夜のお尻まで届いている三つ編みの髪の毛をなでていた。そのあと、雅夜の妹たちやいとこの少女の髪もなでていったのであった。

女王「とりあえず、あなたたち、それにもうひとりの、うふふふ、この子も髪の毛長いし役にたちそうだわね。起こしましょう。」

ツインテールの三つ編みに結ったまま倒れていた裕美也を女王が起こし、目覚めさせたのであった。そして、六人を横に並べて気をつけの姿勢で立たせていた。

女王「さあ、おまえたちはかねてからわたしがほしいと思っていた手下のクモ女に、こうして晴れてできるようになった最初の者たち。これまでずっとようすをうかがっていたけど、ようやく手に入れることができたわ。おまえたちは、新たに仲間をふやしていくのが当分の使命。」

一同「はい。」

女王「特に、おまえたちのように髪の毛を長くしている者は人間を襲って仲間にすることができるから、なるべくなら長い髪の者を狙ってみるがよい。特にそこにいる男の子にがんばってもらおう。」

裕美也「はい。」

女王「ふふふふ。さっそく作戦を開始するわ。」

 

研究所の休憩室で眠っていた幸子は、翌朝10時ぐらいまで眠っていた。

幸子「学校にいかなければ、でも、制服も家においてあるけど、いまは帰れないかもしれないし、しかたないわ。お休みの連絡を携帯に入れておこう。」

幸子は部屋を出て、昨夜いた藤岩という女性研究員を探していた。すでに多くの研究員が来ていて活動を始めているようすであった。

幸子は、研究員のうちのひとりに藤岩のことをきいてみたが、外出中という返事だった。食堂が所内にあるからまだだったら食べに行きなさいとその研究員に言われたので、腹ごしらえをしてそれから部屋で待つことにした。

その、藤岩という研究員が昼すぎにようやく戻っていた。

幸子「あ、藤岩さん、なにかわかりました?」

藤岩「あなたのいとこで、比良雅夜さんという方の通っている学校を見てきたわ。隠し撮りの写真も、ほら、ひとりの生徒さんの髪の毛にクモが隠れているのが見えるでしょう。これはそうとう恐ろしい種類の毒グモよ。文献も調べてみたけど、かなりあぶないわ。」

藤岩は、幸子にその写真を見せていた。後頭部の、おさげの髪の毛を結んでいるところにたしかに一匹のクモが見えていた。

幸子「この女の子の髪の毛のなかに…、そんな、恐ろしい毒グモが雅夜さんの学校に…。」

藤岩「これはね、ヘアスパイダーっていう、その名のとおりに、人の髪の毛や、まああなたのような方のまえでよくない話だけど、アンダーヘアーに寄生して人を狂わせてしまうものなの。」

幸子「ええっ?ヘアスパイダー?」

藤岩「たしか、雅夜さんという方、髪の毛をお尻をこえるくらい長くしてらっしゃるんでしょ。」

幸子「はい。もしかして、雅夜さんの髪の毛にも入っていたとでも。」

藤岩「ヘアスパイダーというのはね、髪の毛に対する執着心の強い人間の性欲に結び付いて合体したという、もともと人間だったといわれているものなの。」

幸子「え?人間だったんですか?」

藤岩「そう。それも雅夜さんのことを、ひとめで好きになった男の化身らしいのよ。」

幸子「そんなことが、どうしてわかるんですか?」

藤岩「雅夜さんは学校へはバスで通ってるわよね。いっしょに乗っていつも同じそのバスで乗り合わせている、もちろん雅夜さんは女子校だから同じ学校にいるわけではないけれど、ひとつ上の学年の男子生徒がたまたま雅夜さんの近くにいた時、バスが走っている前に子どもがとびだして急停車した時、満員だった乗客が倒れたりして、その男子生徒が雅夜さんのほうにも倒れかかったの。そのとき、男子生徒は雅夜さんに対する好意を気づかれないようにと思って身体をよけようとしたけど、かえって雅夜さんに気づかせることになってしまったの。」

幸子「雅夜さんを好きになった男の子がいたんですか。でも、雅夜さんはあまり男の子は好きじゃないし、もともともてないほうでいわゆるボーイフレンドも昔からいないのに。」

藤岩「たしかに、失礼だけど、彼女は太っているし美人とはいえないわね。けれど、髪の毛を長くしているから、長い髪の毛を好む男子生徒が目をつけていたのよ。その男子生徒はよけようとしたら手が雅夜さんの背中におろしていた三つ編みの髪の毛にひっかかって、雅夜さんの髪の毛のなかほどをつまんでしまったのよ。あわてて、男子生徒は髪の毛を離したけど、雅夜さんにとっては痴漢にあったような思いで…。」

幸子「その男子生徒は…。」

藤岩「雅夜さんの好みだったらよかったかもしれないけど、その男子生徒も女の子には縁がないいじめられっこのタイプで、よけいかかわりたくないと雅夜さんは思っていた。けれども、男子生徒はいつも同じバスで雅夜さんのことを見るたびに興奮していて、ある夜…。」

幸子「まあ、好きでもないような人に追いかけられるのはいやだけど…。」

藤岩「その男子生徒が雅夜さんの夢を見て髪の毛をほどくしぐさなどに興奮していわゆる夢精をやったらしく、そこへクモがとびおりてきて、つまり精液が好物のクモだったのよ。そのクモは大量に精液を出していた男の精液を飲んで巨大化し、とうとう男子生徒も飲みこんでしまったの。」

幸子「じゃあ、人喰い…。」

藤岩「けれど、男子生徒の魂はそのままクモに乗り移り、とうとう雅夜さんのいる学校まで来て…。」

幸子「それで、そのクモが雅夜さんの髪の毛に侵入して雅夜さんを襲ったというんですか?」

藤岩「悪質な生物はいつかこうした人間の欲望につけこんで人間社会を襲い、自分たちのものにしようと狙っているわ。たまたまその男子生徒の雅夜さんに対する好意、それも本当に愛するとかいうのではなく、長い髪の毛を見ていやらしいことをしたいと思ったりしていただけで…。」

幸子「いずれにしても、男の一方的な片思いのためにみんな恐ろしい目にあっているわけなんですか?雅夜さんにはなんの罪もないのに…。」

藤岩「まあ、失礼ながら雅夜さんもあまりやさしい性格のほうではないから。」

幸子「なおす方法はわかってないのですか?」

藤岩「いま、なかなか…。」

 

その、雅夜の女子校は生徒のほとんどがクモ女と化してまさに乗っ取られている状態となった。

女子便所にも異様な光景が展開されていた。

雅夜「ああ、ああん…、うう、あーん…。」

制服のスカートをぬいでいて、上着もまくりあげられ、雅夜の胸をじかにもんでいるクモの手が見えていた。雅夜は洋式便所の上にすわって後ろから三つ編みの髪の毛をわしづかみにされたりするなどしていた。雅夜の身体の上にもじかにはっているクモが…。

(つづく)

 




暗黒催眠空間トップページ