お姉さまと呼ばれたくて01






キーン コーン
「…ん」
チャイムの音で私、小早川ゆたかは目を覚ます。
ここは保健室のベッド。
私は授業中に気分が悪くなり、いつものようにみなみちゃんにお世話になって保健室で休んでいたのだ。
そのみなみちゃんも今は教室に戻っているらしく、ここにはいない。
窓の外を見ると空が夕陽で赤く染まっていて、少なくない時間をねむっていた事を知らせていた。
「はぁ…私って、どうしてこんなに弱いんだろ…」
高校生になって、昔に比べれば体調を崩したり、保健室のお世話になることは少なくなった。
けれども身体が弱いのは相変わらずで、時々自分がイヤになる。
「強く…なれないかな…」
「なれるよ」
「えっ?」
誰もいないと思っていたのに、入り口にいつのまにかつかさ先輩がいた。
「つかさ先輩…いつからいたんですか?」
「ついさっきかな。それよりゆたかちゃん、強くなりたいんだね?」
つかさ先輩はベッドに腰掛けながら確認するようにたずねた。
「はい、私強くなりたいです!」
「そっかぁ。でも、今のままじゃ無理だね」
「えっ?」
当たり前のこと、とでも言うようにつかさ先輩は私の望みを否定した。
「ゆたかちゃんは身体が弱いことを気にしてるみたいだけど、そんなことは問題じゃないんだよ。問題なのはその弱気な性格なんだ。病は気からって言うでしょ?心が弱いから身体も弱いままなんだよ」
「……」
つかさ先輩の言う通りだと思った。
私は身体が弱いことを理由に、いつからか何に対しても消極的になってしまったように思う。
「でも…性格をなおすなんて」
一度定着してしまった性格を直すなんて、簡単にはできないよ……
「よかったら手伝ってあげようか?」
「えっ…」
思わぬ一言に私は希望に満ちた目でつかさ先輩を見る。
「ゆたかちゃんは催眠術って信じるかな?」
「催眠術…ですか」
聞き慣れない言葉に首をかしげる。
「私ね、最近催眠が使えるようになったんだ。もしゆたかちゃんさえよければ、弱気な性格を直すきっかけになれると思うんだ」
「でも…いいんですか?」
「うん、すぐに終わるからね」
一瞬。ほんの一瞬だったけど、つかさ先輩の目が妖しく光った気がした。
「それじゃあゆたかちゃん、深呼吸し、リラックスしてね」
「は、はい!」
つかさ先輩に言われたとおり、身体の力を抜いてリラックスする。
「私の目を見て」
いつの間にかつかさ先輩の顔がすぐ近くにあって、思わず言葉に従ってしまう。
「目をそらさないでね。じっと見続けて」
「は……い……」
「私の瞳だけを見て。私の声だけを聴いて。私のことだけを考えて」
「つかさ先輩の……こと……だけ……」
「そう……もう私の声しか聴こえない。私の声が心に響いていく。それはとっても気持ちいい」
「気持ち……いい……」
いつのまにか、私の頭の中はつかさ先輩のことでいっぱいになってしまっていた。
つかさ先輩の瞳に吸い込まれていくような感覚がしたが、どうしても目を逸らすことができず、それどころか自分から進んで見つめつづけてしまう。
「ふふっ、いい具合になってきたね。さぁ、ゆたかちゃんはだんだん眠くなってくるよ」
「ねむ……く……」
「そう、私の目を見ていると、だんだんまぶたが重くなってくるよ。復唱して、だんだんまぶたが重くなる……」
「まぶたが……重く……なる……」
「そうよ、続けて……頭の中がほわあんとしてくる……とっても気持ちいい」
「ほわあん……と……きもち……い……い」
唇が勝手に動き、つかさ先輩の言葉を私の言葉として紡いでいく。
「もう眠くてたまらない……眠くなる……眠くなる……」
「ねむく……ねむ……く…… ……」
「眠くなる……眠くなる……ゆたかちゃんは眠くてたまらなくなる」
「ねむ……く……ね……む…………く…………」
「……… ……  ………   ………   ………………」
「………………………………………………………………………………………………………………………」

「はい、終わり」
「えっ?」
私はハッとしてつかさ先輩に問いかける。
「あの、もう終わりですか?」
だって、見つめ合って、少しそれらしい言葉をかけられただけなのに。確かに、少しぼーっとしたような気がするけど、これだけで終わりなんて拍子抜けしてしまった。
「ん~なんかね、ゆたかちゃんは催眠にかかりにくい体質みたいなんだよね」
「えっ、そうなんですか?」
「うん、催眠はかかりやすい人とそうでない人がいるんだけど、ゆたかちゃんは後者みたいだね。ごめんね、力になれなくて……」
「いえ、つかさ先輩の気持ち、嬉しかったです!」
「ん~ゆたかちゃんはカワイイなぁ!」
つかさ先輩はそっと私の頭をなでた。ふわっとつかさ先輩の匂いが私の鼻をくすぐる。
トクン
(あれ?)
なんだろ‥‥なんだかどきどきする。
つかさ先輩に頭をなでられているだけなのに…
トクン……トクン……
はぁ……どうして……?先輩の手のひらがなんだかとってもあったかい。先輩の手が触れている部分がほわあんとして気持ちいい。もっと……なでなでして……ほしい……
「ゆたかちゃん?」
「ふぁっ!」
声をかけられ、思わずビクッとなってしまう。
「どうしたの?顔赤いよ。もしかして、熱、ある?」
そう言ってつかさ先輩は私のおでこにそっと手を当てた。
「ふぁ……ぁぁ」
(ああ、つかさ先輩の手が……って!私はどうしてこんなに意識しちゃってるの?つかさ先輩はただ熱を測っているだけで……)
私が心の中でジタバタしているとつかさ先輩は怪訝な顔をして、
「ん~よくわからないな。ゆたかちゃん、ちょっと失礼」
コツンとおでこを合わせてきた。
「~~~~~~~~っ!!!」
心臓のどきどきはバクバクに変わり、ますます顔が熱くなっていく。
(はあ……っ……ああ、つかさ先輩)
目の前につかさ先輩の顔があって、おでことおでこがくっついていて、唇と唇の距離は考えるのも野暮なほど近い。
そして私はほんの少し。ほんの少しだけ唇を突き出した。
まるでキスするかのように……

チュッ

わたしの唇がつかさ先輩の唇に触れてしまった。
「……ん」
本来なら大変なことのはずなのに、私もつかさ先輩もそれが当たり前であるかのように唇を合わせ続ける。
チュッ……チュッ……
「ふぅ……ん」
「…ぁ……んん」
軽く触れるだけのキスなのに、私の体の奥がじんわりとあたたかくなってくる。まるで、その、一人でしてるときのような……
「ちゅ…ん…ふ」
少しずつ、唇の触れ合いが深くなっていく。
もっと深いキスがしたくなって、私はちょっとだけ舌を出してつかさ先輩の唇をなめた。
「んんっ…ちゅ……くちゅ」
つかさ先輩の舌がそれに応じ、私たちのキスはたちまち舌を絡ませる大人のキスになった。
「んっ…ちゅ…はぁ……んん」
くちゅ、くちゅといやらしい音が保健室に響く。
どんどん気分が盛り上がっていき、身体の奥のあたたかさはジンジンとしたエッチな痺れに変わる。
(はぁ…気持ちいいよぉ……私、どうしてこんなにエッチな気持ちになっちゃうんだろ)
突然の展開に混乱がないわけではなかったが、あまりの気持ちよさに些細な疑問は頭の片隅に追いやられてしまう。
つかさ先輩から与えられる快感は確実に私の理性を溶かし、絶頂へと導いていく。
「ちゅ…んっ…んんっ…ちゅ…くちゅ…あぁ」
(このまま…もっと…はぁ…気持ちいい……気持ちいいよぉ)
身体がジンジンして、心がぽわぽわして、もっと気持ちよくなりたくて、つかさ先輩の舌と唇を蹂躙する。
(も、もうダメ……私っ!)
「はぁ…ダメッ……んん!ちゅ…ちゅ…ああ……くちゅ…ん!ああっ!」
身体がぶるっと震え、急激に力が抜け、つかさ先輩の腕に倒れこんだ。
「はぁ……はぁ……」
「ゆたかちゃん……」
つかさ先輩の優しい声が私の心の中に響く。
「ゆたかちゃんは、私のことが好きなんだね」
確認するようにつかさ先輩がささやく。
「私…つかさ先輩のこと…好き……」
私は頭の中がぼんやりしたまま、つかさ先輩の言葉を復唱する。
「好きでもない人と、キスなんてしないよね」
「はい…キスは…好きな人としかしません……」
「私とキスしたってことは、ゆたかちゃんは私のことが好きなんだね」
つかさ先輩とのキスと絶頂の余韻で意識が朦朧とした私の心は、つかさ先輩の言葉に素直に従ってしまう。
「それじゃあゆたかちゃん、私のこと、どう思ってる?素直にしゃべってごらん」
そう言われてつかさ先輩の顔を見ると、あたたかくて切ない思いが私の心いっぱいに広がる。ああ、私、つかさ先輩のことが好きなんだ……
「はい…私は…つかさ先輩のことが…大好きです」
私は『自分の気持ち』を正直に告白する。
「ゆたかちゃん、よく言えました」
そう言ってつかさ先輩は私の頭をなでてくれる。
(はぁ…気持ちいい……もっとほめて欲しい…もっとなでなでして欲しい…)
「ゆたかちゃんは、私の恋人になるんだよ」
「はい……私、つかさ先輩の恋人になります」
心の導くままに私ははっきりと言い切った。
「今日から私のことはつかさお姉さまって呼んでね。私もゆたかちゃんのこと、ゆたかって呼ぶからね。恋人同士なら当然だよね」
(うん、恋人同士なら当然……)
「はい!つかさお姉さま」
「ん、ゆたかはいい子だね」
なでなで

なでなで
ゆたかの頭をなでなでしながら、私は強い感動に打ち震えていた。
こなちゃん流に言うなら、きたああぁぁぁぁぁ!!って叫びたいくらい!
ずっと大好きだったゆたかちゃんが!私のことを!お姉さまと!
最初に見つめ合った時にゆたかちゃんに催眠をかけることに成功すると後は簡単だった。

「眠くなる……眠くなる……ゆたかちゃんは眠くてたまらなくなる」
「ねむ……く……ね……む…………く…………」
ゆたかちゃんの瞳は今にも閉じてしまいそうなほどにとろとろになっていた。無防備に開かれた唇は私の言葉を疑いもせずに復唱している。
私はゆたかちゃんの目の前に手をかざして彼女の視界を覆うと、止めとばかりに言葉をかけた。
「ねむっている……ゆたかちゃんはねむっている……」
視界を閉ざされ、目を閉じたと勘違いさせられたゆたかちゃんはあっさりと私の言葉を受け入れ、とうとう私の催眠を受け入れた。
「ゆたかちゃん、あなたは私の催眠術にかかってしまいました」
耳元で優しくささやき、ゆたかちゃんに自分が催眠術にかかっていることを認識させる。
「これから3つかぞえると、あなたは目をさまします。ただし、目を覚ましてもゆたかちゃんは催眠にかかったままです。頭がぼーっとして、なんだか夢の世界にいるみたいです。それはとっても気持ちいいことです。いくよ……1、2、3!」
数え終わるのと同時にゆたかちゃんは目を覚ました。その表情は目の焦点は合っておらず、夢をみているようにぼんやりしていて、なんというかとても無防備だった。ずっと大好きだった彼女がこんな無防備な姿をさらしてくれることに私は思わず感動してしまった。

その後はゆたかちゃんの心に眠る甘くて、切なくて、エッチな感情を引き出してあげた。
私に触れられるとどきどきする、初恋の甘酸っぱい気持ちを思い出す、唇が近くに来るとキスをしたくなる、キスをしているとエッチな気分になる、一人エッチしているときのように気持ちよくなる、などなどの暗示をかけ私の虜にした。
ゆたかちゃんは今、私のことが好きで好きでたまらないはず。
今や『ゆたか』と呼ぶことはみなみちゃんの特権ではなくなった。
「んん~…つかさおねえさまぁ~」
メロメロになって甘えてくるゆたかかの頭をなでなでして彼女の髪の感触を楽しみながら、私は残りの授業時間を保健室で優雅に過ごすのだった。







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