お姉さまと呼ばれたくて03






「つかさ先輩、お待ちしてました」
「何の用かな?みなみちゃん」
放課後体育館裏で、私はつかさ先輩と対峙した。
つかさ先輩の手には私からの白い封筒が握られている。
このような形で人を呼び出したことなどなかったが、つかさ先輩とはキチンと話をしておきたかった。
「できれば手短に済ませて欲しいな。これからゆたかちゃんとの約束があるんだ」
私の心を見透かしたような言い方だ。
つかさ先輩は人を不愉快にさせる話術でも心得ているのだろうか。
「では単刀直入に訊きます。ゆたかと、付き合ってるんですか?」
ゆたかは私にとって大切な親友だ。初めて会ったときからこの子のそばにいて守ってあげたいと思った。
彼女の愛らしい姿や控えめで純粋な人柄にふれるうちに、私の思いが友情から愛情に変わるのにそれほどの時間は必要なかった。
だが私たちは女の子同士。
分の悪い勝負を挑むよりは親友としてそばに居れたらと私は思っていた。
ところが最近、ゆたかの付き合いが急に悪くなった。
お弁当を一緒に食べたり一緒に帰ったりすることがなくなり、その代わりにつかさ先輩と一緒にいる時間が増えた。
みゆきさんに聴いた話だと、昨日ゆたかはつかさ先輩の家に泊まったという。
ゆたかに訊いてもはぐらかされてしまうし強く問い詰めることもできないため、つかさ先輩に直接訊くことにした。
ところが、
「くすっ」
つかさ先輩から返ってきたのは嘲笑だった。
「なにが…おかしいのですか…」
つかさ先輩への苛立ちを抑えながら努めて冷静になろうとする。
「私とゆたかちゃんが付き合ってる?くすくす」
「……」
しかし、つかさ先輩の言葉は私の神経を容赦なく逆撫でしていく。
「みなみちゃん、知ってる?ゆたかってね、キスが大好きなんだよ」
「!」
私以外の人がゆたかを呼び捨てにするのを聞いて愕然とする。
「キスをおねだりするときのゆたか、可愛かったなー」
「っ!」
「唇も柔らかくて……」
「やめてください!」
気づいたら私は先輩の話を遮っていた。
「もう……十分です……」
(やっぱり、つかさ先輩とゆたかは……)
「ね、みなみちゃん。いいもの見せてあげよっか」
「え?」
顔をあげるとつかさ先輩の手には小さなペンダントが握られていた。
「ゆたかに貰ったんだよ。いいでしょ」
小さな青く輝く石がペンダントトップになっているかわいらしいものだ。
「ほら、よく見て……」
ペンダントの石がキラッ、キラッと輝いてつい見とれてしまう。
「きれい……」
「そう、とってもきれいだね。ふふ……」
ペンダントがゆらゆらと揺れて、その動きをつい追ってしまう。
「そう、ペンダントから目を離さないで……みなみちゃんはだんだん眠くなってくるよ……」
「なにを……言って……」
「だんだんまぶたが重くなってくる。目をあけているのが辛くなってくる。ふふっ……いい感じになってきたね、みなみちゃん」
「ぅ………そんな、こと……ない…………」
強気な事を口にしつつも視線はペンダントを追って左右に動いてしまい、一往復するごとに抗いがたい眠気が襲ってくる。
「我慢しないで、素直が一番だよ。素直になればとっても気持ちよくなれる。ほら、もっとよく見て」
つかさ先輩の言う事をきいてはいけない。いけないと自分に言い聞かせても、瞳はペンダントを見つめ続け、耳はつかさ先輩の言葉を受け入れてしまう。
「ほうら、何も考えないで。身体から力を抜いて……目を閉じて……」
瞼が重くなり、身体から力が抜け、ふらぁっと倒れていく。
だが私の身体は地面に叩きつけられることはなく、誰かがそっと受け止めてくれた。
(……だれ?)
薄れゆく意識の中で私が感じたのは、とても懐かしいぬくもりだった。



「…ん」
目をさましたとき、私はベットの上にいた。
「気がつきましたか?みなみさん」
「みゆき…さん?」
ここは…みゆきさんの部屋?
ここにくるのはずいぶん久しぶりな気がする。
「大丈夫ですか?気分は悪くありませんか?」
「ん…大丈夫です。私は、どうして…?」
「覚えていらっしゃらないのですか?つかささんとお話している最中に気分が悪くなったとのことで、ここへお連れしたのですが」
「つかさ…先輩?」
ん…なんだろ。全然思い出せない。
放課後から今までのことが霞がかかったようになっていて、思い出すのも億劫だ。
「みなみさん。まだ調子が悪そうですね。今日はここに泊まっていってください」
「え…でも」
さすがに悪いと思った。ただでさえベットを使わせてもらったのだし…
「今夜は母がいなくて私ひとりですし、遠慮はしないでください」
「……わかりました。お世話になります」
どうして泊まらせてもらおうと思ったのか。
なぜだか私は、もう少しみゆきさんのそばにいたいと思ったのだ。



「ふう…」
今私は高良家のお風呂に浸かっている。
五人くらいは余裕で入れそうなお風呂を一人で独占しているのだから贅沢な話だ。
あのあと、みゆきさん手作りの夕食をいただき、お茶を飲みながら談笑した。
みゆきさんの穏やかな時間をすごすのは本当に久しぶりで、なんだか新鮮な気がした。
「あの…みなみさん」
扉の向こうからみゆきさんの声がした。
「みゆきさん?どうかしましたか?」
ガチャッ
扉が開いて身体にバスタオルを巻いただけのみゆきさんが立っていた。
「み、みゆきさん!?」
「みなみさん…お風呂をご一緒しても…よろしいでしょうか…?」
頬を赤らめて上目遣いでみゆきさんは私に問いかける。
ダメなどと、言えるはずもない。
「ど…どうぞ…」
私はなるべくみゆきさんのほうを見ないようにして返事をする。
「それでは…失礼して」
チャプン
ゆっくりとみゆきさんが湯船に入ってくる。
どきどき
どきどき
どうしてこんなに心臓がドキドキするんだろう。昔は…
「昔は、よくこうして一緒にお風呂に入りましたよね…」
「えっ」
みゆきさんを見ると、彼女はどこか遠くを見るような目で語り始めた。
「みなみさんは昔から私のことをお姉さんみたいに慕ってくれて、私もみなみさんを妹のように思っていました」
みゆきさんは何が言いたいんだろう。
私はみゆきさんから目を離すことができず、みゆきさんの話を聞き入ってしまう。
「でも時がたつにつれて、みなみさんは少しずつ私から離れていきました。今ではこうして家に来ることも稀になってしまって…」
みゆきさんがこちらを向いた。
「最近はゆたかさんと一緒の時間が多くて……みなみさん」
みゆきさんがゆっくりと近づいてくる。
「私は……」
彼女の手が私の頬にふれ、顔が近づいてくる。
「寂しかったんですよ」
そっと…唇がふれた。



「ん…ふ…」
「ちゅ…んんっ」
どのくらいそうしていただろう。
みゆきさんとのキスはあまりに心地よく拒むことができなかった。
ふれ合ったときと同じくらい唐突にそっと唇が離れる。
「ごめんなさい、みなみさん。私は…んむっ」
彼女が言葉を発する前に唇をふさぐ。
もっとみゆきさんとキスしたい。
その思いが私を突き動かした。
「ん、んんっ」
舌で唇をノックすると、彼女はあっさりと私を受け入れ、自分の舌を絡ませた。
「ちゅ…んんっ…くちゅ…ちゅ…ん」
「あん…ちゅう…んんっ…ちゅ…くちゅ」
いやらしい水音が風呂場に響き、私たちをより盛り上げていく。
「んんっ…ちゅ…ぷはっ」
「ん…はぁ…みゆきさん、私を抱いてください」
熱に浮かされたように私はみゆきさんに懇願する。
「いいのですか?みなみさんには…ゆたかさんが…」
ズキ
一瞬胸に痛みが走った気がしたが、目の前のみゆきさんがあまりに愛しくて、ゆたかのことですら考えられなくなっていく。
「ゆたかは…大事な親友です。でも一番じゃありません。私にとっての一番は…」
ズキ…ズキ…
胸の痛みが少し強くなった気がした。
「私の好きな人は…」
ズキッ…ズキッ…
なんなんだろう、この痛みは。
「好きな人は」
ズキン
無視しよう。無視してしまえ!
「みゆきさんなんです!」
その瞬間、私の中でなにかが変わった気がした。
さっきまでの胸の痛みも急に感じなくなった。
だが、もうそんなことはどうでも良くなった。
私はみゆきさんに抱きしめられているのだから。
「ありがとうございます。私も、みなみさんのことが大好きです」
みゆきさんの声は少し震えているようだった。
泣いてる?
「ん…」
だが私の思考は突然の快感によって強制的に中断させられる。
いつのまにかみゆきさんの手が私の胸にふれていた。
「ふ…ぁぁ」
「ふふ…敏感なんですね、みなみさん」
みゆきさんの指が私の桜色の突起を優しくこする。
「あ…あ……ダメ…私…小さいですし…」
「小さくてもかわいらしいじゃないですか。感度もこんなにいいようですし」
「でも、私は…んんっ…みゆきさんみたいに…あん…大きくなりたかった」
「では、こんなのはどうでしょう」
言いながらみゆきさんは身体に巻いていたバスタオルを取り払った。
彼女の豊満な胸があらわになる。
彼女はゆっくりと近づき、自分の乳首で私の乳首をこすりはじめた。
「ふあああああぁぁ…みゆきさん、それ…だめぇ」
「これなら…んっ…私も、気持ちいいですから」
お互いの乳首はたちまち限界まで勃起し、ますます感度を高めていく。
「はぁ…はぁ…ああっ」
「ふふ、みなみさんの胸の先っぽ、すごくかたくなってますよ」
「んあっ!みゆきさんだって…あんっ!」
さらにみゆきさんは、指で私の女の子の部分をさわりはじめた。
「だめっ…ああっ…きもち…よすぎて……もうっ…」
敏感なところを執拗に刺激されて、私はたちまち絶頂へと上り詰めていく。
しかし、
「ああっ…だめ…私…」
直前になって、急にもよおしてしまった。
「みゆきさん…私…もらしちゃ…」
「あら…ではこちらへ来てください」
みゆきさんは浴槽を出て大きな姿見の前にある腰掛けに私を誘った。
絶頂付近で意識が朦朧としている私は誘われるがままに浴槽を出て腰掛けに座った。
そして、
「ここで、してください」
みゆきさんはとんでもないことを囁いた。
「―っ!そんなこと…」
驚いて振り向こうとした私をみゆきさんは後ろからそっと抱きしめた。
「あ……」
それだけで私の心は落ち着いてしまい、みゆきさんの言うことに従いたくなってしまう。
「大丈夫ですよ」
甘い言葉を囁きながらみゆきさんの指は私の割れ目を開き、おしっこが出るところをこちょこちょとくすぐる。
「ほら、いい子ですね。しーしーしましょうねー」
「ふぁ……ぁぁ……」
そのあまりの心地よさに私のガマンはあっさりと吹き飛んだ。
「んっ…」
ぶるっ、と身体が震え、おしっこが漏れだす。
ちょろろろろろろ
「はぁ…ぁぁ」
「みなみさん、前を見て」
「えっ?…あっ!」
目の前の姿見は私がおしっこしてるところを鮮明に映し出していた。
「やだ、こんな……」
目をそむけようとするが……
「だめ。ほら、よく見て」
みゆきさんはそれを許さない。
「ああ……うう……」
結局私は最後まで自分の痴態を見続けてしまった。
「くすっ、よくできました」
そう言って、みゆきさんは私の女の子をとらえていた指をゆっくりと動かす。
「あ…あぁ…」
しびれるような快感が下半身から全身へと広がり、自分がイク直前だったことを思い出す。
「我慢しないで…みなみさんのエッチな声、聴かせて下さい」
「ん…はぁっ…ああ…ああっ……みゆき…さ……イッちゃ…」
ギュっとみゆきさんが私を抱く力が強くなる。
「イきそうですか?いいですよ、イッてください」
「ぁぁ…だめ…イク……イッちゃ…ぁ…ぁあっ…うああああぁぁぁっ!」
頭の中が真っ白になるほど快感に打ちのめされ、私は絶頂を迎えた。
「……はぁ…はぁ…」
「大好きですよ、みなみさん」
みゆきさんの声が頭の中に響いていく。
「はい…みゆき…おねえさま…」
思わず昔の呼び方が出てしまう。
でも、それでもいいと思った。
みゆきお姉さまに抱かれて、私の意識はゆっくりとホワイトアウトしていった。



「すう…すう…」
「……みなみさん」
私のとなりで安らかな寝息をたてているみなみさんを見つめる。
みなみさんとの行為のあと、私たちはパジャマに着替え、何年ぶりか同じベットで眠った。
「ふふ…みゆきお姉さま…」
みなみさんの夢の中にも、私がいるのでしょうか。
無邪気な顔で甘えてくるみなみさんを見ていると、強い罪悪感に襲われる。
「本当に、これでよかったのでしょうか…」



時は昼休みの屋上まで遡る。
「意外だったね。みなみちゃんだと思ったけど」
つかささんの手には私が彼女を呼び出すのに使ったチェックの封筒が握られていた。
「ゆきちゃんが私にお話って、なんなのかな?」
「…つかささんは最近、ゆたかさんと仲がよろしいようですね」
「……」
「昨夜、ゆたかさんはつかささんの家にお泊りされたようですし」
「どうしてそんなこと知ってるの?」
「後をつけました」
「……みなみちゃんか」
「少し前、最近ゆたかさんの付き合いが悪くなったとみなみさんから相談を受けました」
「それで?」
「ゆたかさんの最近の行動を調べさせていただきました」
先輩としてあまり感心できることではないですが、みなみさんがかわいそうでしたので私はゆたかさんのご様子を調べることにしました。
すると、ゆたかさんはつかささんと恋人同士になったようでした。
人前ではよくわかりませんが、二人っきりのときはかなり大胆に愛を育んでいらっしゃるようでした。ですが…
「お二人が恋人同士ということそのものに異論はありません。ですが、少し、ゆたかさんの様子がおかしいと思いました」
「………おかしいって?」
「こう言ってはなんですが、ゆたかさんのつかささんに対する甘え方が…なんというか、不自然な印象を受けました」
ザァッと風が吹いて私たちの髪をなびかせた。
…つかささんの空気が…変わった?
「ふふっ、さすがはゆきちゃんだね」
「どういう、ことですか?」
目の前にいるつかささんは、さっきまでのつかささんと本当に同一人物なのでしょうか……
身にまとう雰囲気というか、オーラがさっきまでとはまるで別人です。
「ゆきちゃんは催眠術って信じるかな?」
「…催眠術?」
「私は最近催眠術がつかえるようになったんだ。まさか私にこんな力があるなんて思わなかったけど…」
「まさか…ゆたかさんに?」
「ゆきちゃんはホント物分りがいいね。説明の手間が省けて助かるよ」
つまりつかささんは、催眠術によってゆたかさんの感情を操って、自分への恋心を抱かせたのだという。
「ですが…ゆたかさんにはみなみさんが…」
「知らないよ」
つかささんは私の発現を遮るようにピシャリと言い放つ。
「今ゆたかが好きなのは私だから」
「それが不自然に植えつけられた感情だとしてもですか!」
「………」
「間違ってます!そんな事実を知ってしまったからには、放っておくわけにはいきません」
「どうするつもりなのかな」
つかささんの返事はやけに冷静だ。私の反応を読んでいるのだろうか。だとしても引くわけにはいかない。
「みなさんにこのことをお話して、ゆたかさんに正気を取り戻していただきます」
それだけ言ってその場から立ち去ろうとするが、
「本当に…それでいいのかな?」
つかささんの冷ややかな声が私を引き止める。
「みなみちゃん」
ビクッと身体が震える。
「…を、振り向かせることだってできるんだよ。私なら」
ガクガクとひざが笑い出す。
そんな…だって…知られてはいないはず…
「みなみちゃんのこと、好きなんだよね」
「っ!」
核心を突かれて動揺する私につかささんはゆっくりと語りかける。
「ゆきちゃんとみなみちゃんは小さい頃からずっと仲良し。
ゆきちゃんはみなみちゃんを妹のように、みなみちゃんはゆきちゃんを姉のように思っていた」
「…いや」
「いつしかゆきちゃんはみなみちゃんに恋心を抱くようになっていた。
ずっと私を頼って欲しい。みなみちゃんのお姉さまでいたい。
そう思うようになった」
「…やめて」
「ところが高校に入学してみなみちゃんはゆたかちゃんにご熱心。
ゆたかちゃんのことで相談されたことも一回や二回じゃないよね?
好きな人が別の人を想って相談されるのってすっごく辛いよね!
自分が信頼されていてもそれ以上にはなれないって言われてるようなものだもん!」
「やめて!やめてください!」
「みなみちゃんの心が欲しい!どんな方法を使ってでも!
そう想ったことはない?
みなみちゃんをゆたかちゃんに盗られたくないって、枕を涙でぬらした夜だってあるでしょ?!」
「いや!いやぁっ!」
心の全てを言い当てられ、私は耳を塞いで絶叫するしかなかった。
「う…うう……」
「ねぇ、ゆきちゃん」
つかささんは、先ほどとは打って変わって優しい声で私に囁く。
「わたしがゆきちゃんの恋をかなえてあげるよ」
つかささんの表情は天使のように優しく。
「ゆきちゃんは私の力のこと、黙っててくれるだけでいいいの」
言葉は悪魔のように狡猾で。
「それだけで、みなみちゃんはゆきちゃんのものだよ」
私から拒否という選択肢を奪っていく。
「……ね?」
目の前に手を差し伸べられる。
この手を取れば……私は……みなみさんと……
果たして私は、つかささんの催眠術にかかってしまったのか……それとも、これは私自信の望みなのか……



「みなみさん…」
眠っている彼女を抱きしめ、決して届くことのない思いを伝える。
「許してください、みなみさん。 人の心を弄ぶなど許しがたい所業です。 死後の世界があるとすれば、私の地獄行きは確定でしょう。せめて、死が私たちを分かつまで、あなたを守り続けることを、誓います」
届くことのない思いは、夜の闇へと静かに消えていった。









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