「桜色」 第二話

 

 

台所からお皿を抱えた桜子がやってくると、部屋中に食欲をそそる香りが立ち込める。

 

「お待たせ、沢山あるからおかわりしてね」

「いただきます・・・うん、美味いよ」

「そう?良かった」

 

桜子は光一が食べ始めるのを見ると、自分もナイフとフォークを取って肉を切りはじめる。

 

「お風呂も沸かしといたから食べたら入ってね?」

 

『お風呂』と言う単語を聞いた光一の胸が少しだけ高鳴る。先程の公園での光景がまた思い出されそうになるのを何とか打ち消す。

 

(駄目だ、俺は一体何を考えてるんだ・・・)

「聞こえなかった?」

「あ、いや、俺はちょっとやることあるから桜子ちゃん先に入ってよ」

「そう?わかったわ」

 

桜子は小首を傾げると素直に従った。その後、夕食は何事も無く終わった。洗い物が終わった桜子はエプロンを外しながら光一に声をかけた。

 

「それじゃ先にお風呂貰うね?」

「うん。(今日の俺はどうかしてる・・・桜子ちゃんの一挙一動に欲情しそうになって・・・溜まってるからってこれじゃロリコンだ・・・自分が嫌になる・・・こんなこと考えてるなんて桜子ちゃんに知られたら・・・)」

 

『シュルシュル・・・』

 

(え・・・?この音・・・服の擦れ合う音?ま、まさか・・・)

「〜〜♪」

(後ろで脱いでるのか!?い、いや、それが何だって言うんだ・・・ただ子供が着替えてるだけじゃないか・・・落ち着け、落ち着かなきゃ・・・)

 

光一の後ろ1mくらいの距離から桜子の鼻歌が聞こえてくる。もはや疑いようが無かった。光一の後ろで桜子が生まれたままの姿になっているのだ。昨日まで、いや数時間前までの光一なら別にこんなこと特別に意識しなかっただろう。だが、今日の数時間の間で桜子が垣間見せた『女』が完全に光一の『男』を動揺させていた。再び光一のペニスに血が流れ込み膨張していく。駄目だと言い聞かせても抗える物ではなかった。

 

「じゃ、入ってくるね?」

 

桜子の声と共に光一の座っているソファの真横に、黒い塊りが投げられた。

 

(赤いワンピースに黒い短めのスカート、黒いニーソックスに・・・桜色の下着・・・これ・・・桜子ちゃんの・・・あぁ・・・駄目だ・・・勃起したら・・・変態じゃないか・・・違う、俺は・・・)

 

 

風呂の扉が閉まり、シャワーの音が聞こえ始める。もう目を逸らす事は出来なかった。自分の真横に、手を伸ばせばすぐ届くところに桜子の服が、下着がある。それを見つめたまま光一の手が自然とペニスに伸びる。

 

(こんなこと・・・駄目だ・・・でも・・・少しだけなら・・・そう、少しだけ・・・)

 

ここ数日の禁欲と、昼間の桜子の誘惑・・・既に光一の心は限界だった。桜子の下着を見つめながら光一はペニスを扱く。部屋には光一の荒い吐息と、ペニスを扱く音と、シャワーの音が断続的に響いている。光一は何度か桜子の衣服に手を伸ばそうとして、そして引っ込める。もしばれたらと思うと度胸が出ないのだ。まるで光一にとって桜子の下着は遠く、手の届かない神聖な物であるかのようだった。

 

(あぁ・・・触りたい・・・触って感じたい・・・桜子の服・・・桜子の肌・・・)

 

だんだんと絶頂が近づいてくる。光一は煩悩の赴くまま桜子の下着に手を伸ばそうとした。だが、

 

『ガチャリ』

 

無機質な音と共に風呂の扉が開き、桜子が顔を覗かせる。

 

「お兄ちゃん、もうすぐ出るから大き目のバスタオル出しといてくれる?」

「あっ!あぁ、わかった!」

 

光一のペニスがビクビクッと脈打つ。射精寸前のところでギリギリ堪えることが出来た。桜子の位置からは光一が下着に手をかけようとしていた事も、下半身丸出しでオナニーしていたことも見えない。にもかかわらず、光一は焦りから、上擦った声で答えた。

あと一扱き、あと一扱きで射精できたのに。桜子の声を聞いた途端、まるで魔法にかかったかのように手が動かなくなってしまった。

 

「お願いね?」

「う、うん・・・(俺は・・・何やってるんだ・・・こんな事、でも・・・あぁ、くそっ!もうちょっとだったのに・・・)」

 

再び扉が閉まる。だがこれ以上続ける度胸は、光一には無かった。

 

 

「お兄ちゃんも入りなよ。もう遅いし・・・」

「わ、わかった」

 

寝巻き姿の桜子が光一のもとにやってくる。何とか勃起もおさまり普通に立ち上がることが出来た。狂おしいほどの性衝動はあったが何とかばれずに済んだ。正直、こんなに見つかる危険の多い場所でオナニーをしたことが自分でも信じられなかった。冷静になってみるとなんて危ないことをしたのかと恐ろしくなる。

 

「じゃ、入ってくるから・・・」

「はぁい」

 

桜子が可愛く返事を返す。光一は着替えを掴むと風呂場のほうへ向かう。その後姿に、桜子が声をかけた。

 

「さっき『タオルとって』って頼んだ時・・・随分荒い呼吸してたけど・・・風邪じゃないよね?一体何をやってたんだか・・・くす・・・」

 

光一の背筋に冷たい汗が流れる。慌てて振り返った光一が見たものは、見せつけるように着替えを仕舞う桜子の後姿だった。

 

水のシャワーを身体に叩きつけながら光一は呟いていた。

 

「落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け・・・・」

 

まるで身体に火をつけられたようだ。自分にここまで性欲があったかと疑いたくなるほど昂ぶっている。しかも相手は自分よりもずっと年下の少女なのだ。光一は別にロリコンの気はない。その証拠に、今日までは桜子を見ても可愛いとは思っても性的対象として見た事は一度も無かった。他の桜子と同年代の女の子にしてもそうだ。

それなのに今日は・・・桜子だっておかしいのだ。今日までは無邪気に抱きついたり、手を握るくらいしかしてこなかったのに・・・まるで光一を誘っているかのようにすら思える。だが女性経験の無い光一はそれに勇気を出して答える事は出来ない。今までの『手を握る』などの行為との同じだと言われてしまえば反論も出来ないだろう。そして何よりも、今まで桜子を性対象として見ていなかった為、この急激な変わりように対処できないのだ。

 

このままでは風邪を引いてしまう・・・光一は湯船に浸かる事もせず風呂を出る。タオルを・・・と探していると居間から桜子の声が聞こえた。

 

「洗濯物増やすと大変だから・・・さっき私が使ったタオルもう一度使ってくれる?あんまり濡れてないと思うから・・・」

「あ、ああ・・・」

 

断る事は出来なかった。断ってしまえば自分が桜子を意識していると認めてしまったようで・・・光一は少し湿ったタオルを手に取った。髪を拭いていると甘い香りが・・・桜子の香りが鼻をくすぐる。また胸が高鳴る。ついさっきこのタオルで桜子は身体を拭いたのだ。桜子の唇を、胸を、そしてあそこも・・・桜子の汗を吸い取ったタオルなのだ。そのタオルで自分の身体を拭いていると言う背徳感が光一を興奮させた。まるで桜子に体中を撫でまわされている様な気分になってくる。

 

(お兄ちゃん・・・感じてるの?感じてるよね?だって段々大きくなってきてるもん・・・)

 

まるで耳元で桜子が囁いているような気になってくる・・・

 

(さっき私に指しゃぶられた時も・・・私がお風呂に入ってた時も・・・感じてたでしょ?オチンチン大きくしてたでしょ?私みたいな女の子に欲情してるの?お兄ちゃん・・・変態なの?)

 

光一のペニスがだんだんと上を向いていく。まるで催眠術にかかったようにバスタオルを握り締めながら・・・

 

(別にいいんだよ?変態でも・・・ほら、オチンチン拭かないの?ゴシゴシって扱かないの?いいんだよ、自分の思うままにして・・・私を滅茶苦茶にしたいの?それとも、私に滅茶苦茶にされたいの・・・?まだ濡れてるよ・・・これは汗?お風呂の水?それとも・・・お兄ちゃんの・・・)

 

「お兄ちゃん!」

 

桜子の大きな声で光一は正気に戻る。いつの間にかタオルを股間に押し付けていた・・・

 

「早く着替えないと湯冷めするよ?もう、しょうがないなぁ・・・」

 

光一は慌ててパンツを履いた。大きくなったペニスのせいで履き辛い。それにまだ少し濡れていたが気になんてしていられなかった。大きく深呼吸をする。投げるようにタオルを洗濯機に投げ込んだ。

 

「お兄ちゃん・・・」

「わっ!」

「何よ?大きな声出して・・・」

 

いつの間にか背後に立っていた桜子に驚いた光一は思わず大きな声を上げてしまう。

 

「いや、いきなり後ろにいたから驚いて・・・何?」

 

光一の問いには答えず桜子は裸の光一の上半身に手を伸ばしてくる。

 

「まだ濡れてるよ・・・」

 

桜子の指が光一の乳首の少し下についていた水滴を撫でる。その瞬間、僅かだが指先が光一の肌と接触し、甘い・・・何とも甘美な痺れを光一にもたらした。

 

「ひぁっ!」

「くす・・・こっちにも・・・ちゃんと拭かないと駄目でしょ?私が拭いてあげる・・・」

 

光一の胸板で桜子の指が踊るように動く。光一はそれに答えるように甘えるような声をあげてしまう。

 

「お兄ちゃんの身体・・・大きくて・・・固くて・・・素敵・・・」

 

桜子の頬が薄紅に染まり、濡れた瞳が光一を見つめている。いつの間にか桜子は光一に寄り添うような距離まで密着している。光一はハッとなった。このままでは膨れ上がったペニスが桜子の腹に触れてばれてしまう・・・

 

「そ、そろそろ服着なきゃ!」

「!?・・・・・・」

 

自分に言い聞かせるよな大きな声で光一は言うと桜子に背を向け上着を着る。その瞬間、光一には見えなかったが桜子の表情が変わった。自分の思い通りにいかなかった苛立ち、怒り・・・そう言った負の感情がごちゃ混ぜになったような表情。だがその表情は一瞬で消え、普段の桜子の表情に戻る。そして・・・

 

「お兄ちゃん、今日一緒に寝てもいい?」

 

桜子が微笑みながら言う。何かを企んだ目・・・肉食動物が獲物を前にした時のような鋭い瞳で言った。桜子の言葉が一瞬理解できず、光一はキョトンとしながら振り返った。

 

「え・・・?」

「だから、お兄ちゃんのお布団で一緒に寝たいの」

 

桜子が媚びた目で見つめる。その姿は断るのが許されないような迫力があった。

 

「べ、別に一人で寝れるだろ?」

 

光一はなるべく素っ気無く、意識などしていないと言う態度を装って断る。だが桜子は引き下がらなかった。

 

「それはそうだけど。別に一緒に寝てもいいじゃない?」

「でも・・・」

「昔は頼んだら一緒に寝てくれたのに・・・何で今は駄目なの?」

「それは桜子ちゃんが子供だったから・・・」

「今でも子供だよ?何で?何で駄目なの?」

「と、兎に角!駄目だよ!」

 

光一は逃げるようにして部屋に入って扉を閉めた。桜子は流石にこれ以上追っては来なかった。

 

「お兄ちゃん・・・」

 

外から桜子の悲しげな声が聞こえたが、振り切るように布団にもぐり耳を塞いだ。

布団に潜り込んで一時間はたったろう。だが光一は全く寝付けなかった。今日一日で桜子が見せた艶かしい態度、そしてさっきの悲しげな声・・・それらの全てが気になって眠るどころではなかった。それに、未だに股間が熱く疼いている。勃起こそしてないものの、一度出さないとおかしくなってしまいそうだった。だが、桜子が同じ家にいる中でオナニーをする度胸など光一にはない。先程の事もある。

 

(ちくしょう・・・全然眠れない・・・水でも飲んで落ち着こう・・・)

 

光一は起きて電気をつけると部屋を出た。そして驚愕した。

 

「さ、桜子ちゃん!?」

 

桜子が部屋の前で蹲っていたのだ。泣いているのか、身体が小刻みに震えている。

 

(まさかさっきからずっと・・・?)

 

光一は桜子の体に触れる。一時間ちょっと前に風呂に入ったと言うのにとても冷たかった。まだ真冬になっていないとは言え、今でも夜はそれなりに冷え込む。パジャマ姿でじっとしていればすぐに風邪を引いてしまうだろう。

 

「な、何でこんなとこに!?」

「・・・お兄ちゃんが一緒に寝てくれないから・・・少しでも・・・近くにいようと・・・思って・・・」

 

しゃっくりをあげながら桜子が言うのを見て、光一は激しく後悔した。

 

(あぁ、俺は何て事を・・・この子はまだこんなに幼い・・・女の子なのに・・・自分の欲求不満を理由に邪険に当たって・・・こんな風に泣かせるなんて・・・俺は最低だ・・・)

 

「ごめんね・・・このままじゃ風邪引いちゃうよ。さあ、入って一緒に寝よう」

 

光一は桜子を抱きしめるようにしながら立ち上がらせ部屋に招きいれた。それが桜子の思惑通りとも知らずに・・・

光一は部屋に入るとすぐに一番小さな光だけ残して電気を消し、桜子と共に布団に入った。布団にはまだ温もりが残っていた。

 




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