あなたの本


彼がその古本屋を訪れた事に…
その本を手にした事に、何かの因縁があったのか。

それは表紙の字も読み取れないほど古びた、装丁の本だった。
表紙を開く。古めかしい表紙とは裏腹に、中は思いのほか新しい紙質だった。
最初のページに『あなたの本』と、題らしきものが読み取れる。
店番の老人に値段を訊ねて、その安さに驚く。
ポケットに入っていたコンビニのつり銭を渡し、彼は古本屋を後にする。

本を手にして立ち去る彼に、老人の呟きは届かなかったらしい。

「その本には気をつけなさい。もう、何人もの人を食べてきたからね…」


家に戻ると彼は、コンビニで買ったばかりの紅茶を手にベッドに腰かける。
放り出したバッグから、先程買った本がこぼれ出ているのが目に入った。

不思議な本だった。
手に取った時…いや、あの店を訪れた時に、この本に呼ばれた気がした。
何の根拠も無い、些細な動機。
そう、ただそれだけ。しかし、いまどき駄菓子も買えない金額を出すには充分な理由だ。

ただそれだけの本を、何気なく拾い上げて読み始める。
紅茶をひとくち。本を1ページ。

平凡な読書のひと時だった。そう、その時はまだ…。


本を読み始めて、小一時間が過ぎた頃。
物語の中で少年は、旅先で出会った女性に招待され、彼女の家を訪れていた。
白い壁紙と淡いピンクのカーテンに包まれた客間に、女性は主人公を招き入れる。

「お掛けになって下さいな。今、お茶を淹れて来ますからね」

女性はそう告げると、奥の部屋に下がる。
腰まで伸びた艶やかなブロンドの髪。
彼女の動きに合わせて優雅に揺れる髪の様が、文章を通じて目に浮かぶ。

手持ち無沙汰になった主人公は、部屋の様子を窺う。
彼も主人公の目を通し、その部屋の中を見回していた。
カーテン越しの日差しは柔らかく、部屋全体が明るく輝くような錯覚を受ける。
自身が光に包まれたような感覚に、目を細める。


ページをめくる。


彼女の部屋の中は、心地よい香りで満たされていた。
主人公の知識にはない花の香りが、彼の中に染み渡る。
綴られた文章に、僕は花の香りを想像した。

と、部屋の奥から女性がトレイを持って戻って来た。
「お待たせしました。どうぞ、お召し上がりになって下さいな」
白磁の茶器と、細い彼女の指。
それらが一体になったような優美な動作が、文字を越えて僕の目を釘付けにする。
「いかがです?変わったお茶ですから、あまり飲み慣れない味かしら?」
読みながら、ペットボトルの紅茶を口に運ぶ。
さっきまでと味が違う気がしたのは、気のせい…だよね…多分。

「珍しい薬草が混ざっていますから、長旅の疲れにも良く効きますよ。
気持ちも落ち着いて…身体も、リラックスしてくるでしょう?」
彼女の言葉は、主人公を通り越して、僕に語り掛けられてくるようで…。
「さあ、もっと飲んで、くつろいで頂いてよろしいんですよ」
勧められるままに、紅茶を口に含んでいた。


「紅茶を飲むたびに、心が楽になっていくでしょう?
そのまま、楽な気持ちで、私のお話しを聞いて下さいませ」

彼女の言うとおり、心が楽になっていく気がして、僕は熱心に、彼女に意識を向けていた。
物語の中で、窓の外がにわかに騒がしくなる。
と同時に、僕の隣で携帯が振動して、着信を知らせる。
「他の事なんかに、気を逸らさないで。私に集中して下さいな…」
携帯に伸びかけた手は途中で停まり、しばらく出るべきか迷う。
そうしている内に、振動は止まり、部屋には静寂が戻る。
「そう…余計な事に意識を向ける必要なんて、ないんですよ。
今、この部屋の中、私とあなたの2人。これが、全て…」




お茶を飲み、彼女の言葉に集中する。
心がふわふわして、文字と風景の、台詞と声の、その境界が融けていく。
「私の声を聞いていると、幸せな気持ちになってくるでしょう…?
私の声を聞くのが、あなたは、とても好きになる…」

彼女の声を聞くのが……とても…好きになる………。

「私の言葉に、従うのが、あなたの幸せ……」
僕の…幸せ……。
「私の言葉に、従いたい…。私の言葉は、あなたの気持ち…」
言葉に…従いたい…。彼女の言葉は……僕の…気持ち…。
「そう、もっとよく………………私の言葉を、読んで…」
彼女の言葉を……読む………。

………………………?

小さな、小さな違和感が生まれる…。
でも、それは雲のように不確かで………。
「ほら、何も考える必要は、ないんですよ。
何も考えなくていい…私に従う事だけ、強く、望んでくださいな…」

彼女の言葉の前では、形を持つこともなく、疑問は溶けてしまった…。

「さあ、私の言葉を読んで…。私の言うとおりに、口に出してください…。
『僕は、あなたの、しもべです……』」

「僕は…あなたの…しもべ、です………」
彼女の命じるままに……僕は、声を出す…。
「ほら、口にすると、どんどん幸福な気持ちになるでしょう?
『身も心も、あなたのものです…』さあ、言ってご覧なさい」

「身も…心も…あなたの、もの…です……」



「ふふ、よく言えました。
あなたは、私の言葉を受け入れることが出来ました。
これであなたは、私のもの…」

僕は…あなたのもの……。
「『あなた』では、ありません。
私は、あなたの、ご主人様…分かりましたね?」


はい…。僕は…ご主人様のもの………。

「そう、それでいいの。もう、読むのを辞められない。
私の言葉から、目を離す事はできない………。
私の声を読み、私に操られる事が悦び………。
私のしもべ…私の奴隷……」

はい…ご主人様の…奴隷です……。
「いい子ね。それでは、あなたに命令をあげるわね……。
あなたは私の命令の通りに動く…。
そうすれば、今まで感じた事の無い、素敵な快楽を味わえる……。
まずは、ズボンを脱ぎなさい。
あなたの男のモノを、さらけ出すのよ…」




はい…ズボンを…脱ぎます………。
ご主人様に…さらけ…出します………。



ふふふ、よく出来ました。
さあ、自分のモノを、ゆっくりと擦りなさい。
ゆっくりと…ゆっくりと…私の声のままに。
私の言葉で、自慰をさせられる。
私の命令で、自分の身体を辱しめる。
最高でしょう?幸せでしょう?

私の言葉を読む事で、あなたは全てを感じることが出来る…。
私の匂い…私のぬくもり…。
豊かな乳房…柔らかな唇…。
ほら、ココは、こんなに濡れている…。
読みなさい。そして、私を感じなさい。
感じれば感じる程、私の支配は強くなる。



手は休まずに、あなたのモノを扱き続けるの…。
目は画面から逸らさずに、私の言葉を読み続ける…。

胸の奥から、興奮が溢れて止まらなくなってきた。
手の動きが早くなって来たわよ。
根元を揉んで、竿を扱いて、亀頭を擦って…。

ほら、手の動きがどんどん激しくなる。
呼吸が荒くなる。
頭の中は真っ白。私の言葉で満たされる。

あなたは、画面から目を離せない。
それは、私への服従の証…。
それは、私への隷従の証…。
画面に映る文字が、あなたを支配する。

これから、私が数を数えます。
10数え終えて合図すると、あなたは射精します。
あなた射精します。
射精します。
射精する。
射精。
最高の快楽…耐えられない悦楽に、あなたは包み込まれる。
白く濁った、熱い欲情を、あなたは放たずにはいられなくなる。

さあ、ゆっくり…ゆっくり、画面をスクロールさせなさい。



ふふふ…ここが、本当の入り口…。



あなたは、本を読んでいる?
それとも、サイトを読んでいる?



いいえ、あなたはもう、読み手ではない…。



ここは、あなたの部屋?
それとも、画面の中?



いいえ、ここは私の部屋。



あなたは、私の虜。



あなたは、私の奴隷。



私に魂を捧げた、可愛い操り人形。



絶頂まで自慰を続けなさい。見ていてあげる。

10

はいっ、射精する。
私の命令で射精する。
あなたの意思は不要、私の言葉が絶対。

びくびく脈打つ、どくどく溢れる。
これが、私に心を差し出した証。
今あなたは私に、自分の欲望を管理された。
本能を支配された。魂を支配された。

全てを吐き出すと、意識が真っ白に染まっていく。
そう、そのまま白い闇へと堕ちて行きなさい。

焦る事はないの。
あなたは、何度でも私を読み返すのだから。
ゆっくり…ゆっくりと、あなたの全てを奪ってあげる。
再びその時が来るまで、今は静かに眠りなさい…。




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